218:ナタリアさんはニニのファンのようです
ニニと連れ立ってナタリアさんたちのいる宿にやって来ました。
この短い時間で私に専属護衛騎士がついたなんて聞いたらさぞかし驚かれるだろうなぁ、なんていうことをニニと話していたのですが。
宿の部屋に行く前、廊下でばったり出会ったナタリアさんの反応は思っていたものと違いました。
「まあ、ヒジリ様。おかえりなさいませ。それと……あ、あなた様は」
綺麗な虹色の瞳がカッと見開かれたのです。
「『光の騎士』ニニ・リヒト様ではございませんの!?」
そう叫んだナタリアさんの顔は驚きと喜びの入り混じった、思いがけない幸運を掴んだ時のような表情でした。
なんと言うんでしょう。こういう表情をする人を元の世界でも見たことがあります。
そう、オタクがアイドルとかに会った時のあの顔です。『推しに笑いかけてもらえた幸せ〜!!!!』と言っていた同級生がいたのをぼんやりと思い出しました。
ということは。
「もしかしてナタリアさん、ニニのファンだったりします?」
「そう、そうですの。その通りですのよヒジリ様! 私、『光の騎士』様に憧れておりますの! 女性でありながら強くて凛々しいなんてとても素敵なことですの! いつも王城に足を運ぶ度に遠目からそのお姿を眺めておりましたのに、まさかこうして手の触れそうな距離で……!! ああ、一体何をお話しすればよろしいんですの?」
いつも物静かなナタリアさんとは思えないほど、前のめりなその言葉にちょっとドン引きです。
まあ……わかりますけどね。私もすぐにはしゃいでしまう性質なので。でもさすがになんというか、予想外でした。
「初めまして、ジュラー侯爵令嬢。わたしのことをご存知でいらっしゃるようで光栄でございます。ジュラー侯爵令嬢のお話しはかねがね伺っております。文官を目指されているとか」
「あ、私としたことがご挨拶を失念しておりました。初めまして、ナタリア・ジュラーと申しますの。ああ、ああ、ありがとうございます。私などをお褒めいただきまして……」
何を見せられているんでしょう、私は。あくまで私の護衛騎士を紹介するはずが、アイドルの握手会にでも迷い込んでしまったような気持ちです。
「あのー、ナタリアさん、ニニは私の魔法の師匠で、それからつい先ほど護衛騎士になったんです」
「『光の騎士』様が護衛騎士!? どういうことですのヒジリ様!」
「この先の『厄災』に向けて、私の身が安全とも限らないからって国王様から言われて、それで護衛を。ニニは頼りになりますよ」
師匠としてはスパルタですけど。
「当然ですの。『光の騎士』様に守っていただけるなんて、ヒジリ様、それはとてもとてもよろしいことですの! その席を代わっていただきたいくらい」
それほどまでに憧れているとは。
もちろん代わることはできませんが、可能なら代わってあげてたいくらいです。
「ジュラー侯爵令嬢、わたしは別に特別なことは何もございません。わたしは所詮、ただ一人の殿方に恋焦がれて、ここまでやってきただけでございますから」
「いえ、いえ、本当にすごいことですの。働くことを目指す私のような者にとって、身分に拘らず立派に騎士としてやっている『光の騎士』様はまさしく理想の女性だと思いますの」
それからオタク語りはしばらく続きましたが省略。まあ、ナタリアさんの熱意だけは伝わってきました。
いつまでも話していたそうにしていましたが、ゆっくりしている暇はありません。
半ば無理矢理ナタリアさんを落ち着かせ、ジュラー侯爵夫妻と合流して、やっと宿を出られたのはそれから一時間後のことでした。
パーティー会場への道中もナタリアさんはちらちらとニニの方を眺めてばかりいましたが、気にしないことにしました。
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