217:師匠が護衛騎士だなんて
儀式が終わり、王の間を出たあとのこと。
私を護るようにしてピッタリとすぐ傍を歩くニニの姿を見て、私は違和感しか感じていませんでした。
魔法の修行中、ニニとは何度も顔を合わせましたし共に行動しましたが、こんな過保護になられても戸惑ってしまうのは当然です。
今の私は貴族令嬢ですし護衛は必要なのかも知れません。でもどうしても首を捻らずにはいられなかったのです。
「別にニニみたいな強い騎士じゃなくても良かったんじゃないですか? ニニが護衛騎士なんてなんだかすごく変な感じです。それにニニだって私なんかの護衛のために前線から退くのは嫌だったでしょう」
「聖女様が心配なさるようなことではございません。聖女様をお護りするのは世界にとっての最重要事項でございますし、わたしの代わりは腕利きの騎士が三人もいれば務まることでございますよ」
「腕利きの騎士が三人……」
実戦を見たことこそないものの、ニニが相当強いのは予想していました。が、まさかそこまでとは。
身長も相まってもはや自分の師匠が怪物にしか見えてきません。顔は美しい女性なのですけれどね。
「聖女様は『厄災』の恐ろしさをわかっておいでではないのでございますね。……もっとも、かく言うわたしも知り尽くしているなどとは言い難いのでございますが」
「世界が滅ぶレベルのことが起きるんでしたよね? 嫌だなぁ私。ずっと平和で過ごしたいのに……」
当然ながら戦うのは嫌いです。状況的に仕方ない時は全力を出しますが、苦手なことには変わりありません。
いじめられた程度で泣く私が滅びに立ち向かえるとはあまり考えられないし考えたくもないと言うのが本音です。
「滅びはやって来ますよ、聖女様。しかし女神様のお力を借りればそれもきっと消しとばすことができるはず。女神様の寵愛を受けた聖女様はまさしくこの世界の希望の星でございます」
「そうですよね。そうなんですよね。私、平和ボケし過ぎてこの世界の恐ろしさから目を背けようとし過ぎなんでしょうか」
ドレスを着て、パーティーに出て。そんな暮らしを続けていくのだと思いたいのかも知れません。
でも現に道中でドラゴンのようなものに襲われたということもあります。賜ったばかりの聖女の杖を握り締め、私は気を引き締めました。
「わたしはまたこうして聖女様とお話しできたことを心から喜ばしく思っております。聖女様が元の世界におかえりになるその日までぜひご一緒させてくださいませ」
「わかりました」
ニニはスパルタな鬼でありながら心強いのは確か。いざとなったら私の聖魔法のサポートを頼める可能性もあります。
それに私なんかよりも何倍も強そうですし――。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
私はセルと合流することなく、ニニと二人きりで城を出ました。
そこから徒歩で向かうのはジュラー侯爵家の皆さんが身を休めている宿。パーティー会場入りは夕暮れ時になってからです。
「ジュラー侯爵家の養女となられて本当に見違えるようでございますよ」
「ありがとうございます。ニニとかレーナ様に言われると、初期の頃の私がどれほどひどかったのかひしひしと伝わってきますね」
「ふふ。平民のわたしは全く気にしておりませんでしたよ」
「そうか、ニニも庶民だったんですよね。庶民から騎士になるというのはすごいことなんだなぁと今ならわかります」
「平民、と言っても騎士の家柄ではございました。ただここまで上り詰めるのにはずいぶんと苦労がありましたが、お陰で聖女様とこうして巡り合うことができたかと思うと幸せな限りでございます」
歩きながら静かに語らう時間はとても楽しく、充実したものでした。
もうすぐ恐ろしい『厄災』が迫っているなんて思えないくらいに。
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