215:聖女の杖を賜りました
「聖女の、杖……?」
国王様から告げられた言葉に首を傾げ、私はしばし考え込んでしまいます。
この世界にそのようなものがあるというのは初耳でしたが、RPGなどでよく聖女キャラが手にしているあれならすぐに思い浮かびました。
先端から癒しの魔法を発し、と同時に武器にもなる優れもの。もしかすると攻撃魔法なんかも出せるかも知れません。
そんなものが実在するというのでしょうか?
「そうだ。すでに用意してある」
懐をガサゴソとやり、何かを抜き出した国王様が私に何かを手渡してきます。
キラキラと黄金に輝くそれは、長い持ち手の棒の両端に薄青の宝玉が埋め込まれていました。
「おお、これは……っ!!」
私の奥底に眠っていた厨二心が揺さぶり起こされるのを感じました。
私、恋愛ものの小説よりファンタジー系が好きなのです。聖女の杖は、密かに憧れていた時期があるくらいでしたから、実際それに触れられるとなるとテンションが上がるのは当然です。当然なのです!
「あの、触ってもいいですか?」
「当然であろう。これは本日よりそなたの所有物だ。聖魔法の魔力が流れやすい素材を使って製作させた特別なものである故、ある程度魔法の腕が上がったそなたになら使用可能であろう。詳しい使い方などはあとで詳しく説明があるので安心するといい」
「ありがとうございます!」
手渡された聖女の杖はずっしり重く、バトンのようにくるくる回してみようと思ったらあまりの重量によろけてしまいそうになるほどでした。
先端から持ち手の部分まで細かに彫られており、まるで美術品のよう。想像通り……いいえ想像以上に美しいです。
これが今日から私のもの。
実際の強さはここで試すわけにはいきませんが、触れるだけで杖の中に聖魔法が流れ込んでいくのがわかりました。
「それがあれば必ずしも聖女の装備でなくとも戦えると『光の騎士』は言っていた。令嬢として生活するならあの装備はいつでも纏えるものではないだろう。常に聖女の杖を携帯しておくように」
「わかりました。じゃあ、ドレスの胸の中に入れておきましょうか」
これで国王様に呼び出された案件は終了。
一体何事かと思いましたが、まさか聖女の杖をいただけることになるなんて。これでルンルン気分でパーティーに挑めるというものです。
そんな風に思いながら「ではこの辺で……」と踵を返そうとした、のですが。
「待て、聖女よ。まだ話は終わっておらぬ」
「なんですか?」
「学園を出て侯爵家の令嬢となった以上、つけ狙われることも多くなる。そこで国の議会で聖女に護衛をつけることが決定した」
この国にも議会なんてあるのですね。初耳です。
……じゃなくて。
「私の護衛? それは侯爵家の人に頼んじゃダメなことなんですか。わざわざ国王様につけてもらわなくても」
「王家に属する者がいい。ジュラー侯爵家に限ってそれはないとは思っているが。貴族というのはいつ国に反旗を翻すかわからないものであるからな。そこで聖女付きの護衛騎士として選ばれたのが」
国王様は一度言葉を切り、それから私の背後にある扉の外へ声をかけた。
「話は終わった。入室せよ」
「はい、失礼いたします」
聞き覚えのある声がして、ギギギという音と共に開かれた扉から何者かが入室します。
その人を見て私は息を呑まずにはいられませんでした。
「あなたは……」
「お久しぶりでございますね、聖女様」
その女性は、とても優しげな微笑を浮かべて私を見下ろしていました。
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