212:レーナ様との再会
「ほら、ぼぅっとしていないで何か言ったらどうですの。エムリオに見惚れる気持ちはわからなくもないですけれど」
エムリオ様との再会に身をこわばらせる私は、セルに小突かれてようやく我に返りました。
あわあわとしながらメイジーに習った通りに頭を下げ、軽く膝を折り曲げながらスカートを持ち上げます。確かこれで正しい、はず。
「エムリオ・スピダパム王太子殿下にご挨拶いたします。ジュラー侯爵家の養女になりました、早乙女聖……じゃなかった、ヒジリ・ジュラーです」
今の名前はどうにも慣れず言い間違えてしまいましたが、一応きちんと挨拶ができてホッと胸を撫で下ろしたくなります。
エムリオ様はそんな私をまるで幼子の成長を見守るような目で見つめました。
「そうか、学園卒業後にジュラー侯爵家に入ったのか。驚いた、短期間でそんなにも礼儀作法を身につけたなんて」
「はい。メイドにたっぷり躾けられましたので見苦しくない程度にはなったかと」
「ヒジリももう立派な淑女だね。ああ、でも素のヒジリもなかなか素敵だと思うからボクの前では堅苦しくならないでいいよ。ボクらは旧友なんだし」
旧友……というには王立学園に通っていた頃に色々あり過ぎたと思います。この世界においては特に超えてはならない一線を踏み越えかけた仲だったことを忘れたわけではないでしょうに。
でもそこのところをグッと飲み込んで、「わかりました」と頷いておくことにしましょう。
「エムリオ様もダンスパーティーに参加なさるんですね。なんというか、すごくキラキラしてて綺麗です」
「そうかい? ありがとう。ヒジリもまるで妖精みたいに可愛らしいよ」
さらっと二次元のイケメンヒーローのような言葉を吐くエムリオ様。
彼の衣装は青地に金銀の刺繍が施された貴族服で、袖口に宝石が光っており、一目でお高いことが窺えました。
普通の男性が纏えば不相応に見えるに違いないそれを着こなしているのですから、さすが王子様です。
「エムリオ様ったらすぐ口説こうとするんですから。困りますよ、もう」
「その通りですわ。エムリオ、ヒジリにばかり構い過ぎでしてよ。アタクシだって本日は気合いを入れておりますのよ。少しはご覧になってくださいまし」
「そうだね、ごめんごめん。キミをエスコートするのを楽しみにしてたよ、ロッティ」
「そのお言葉、どうにも信用なりませんわ。本当はヒジリと踊りたいと思っていらっしゃるのではなくて?」
冗談半分、本気半分でエムリオ様を問い詰めるセル。
わずかに視線を泳がせたエムリオ様が言い訳を口にしようとしたその時でした。
彼の背後の扉が勢いよく開いたのは。
「ごきげんよう! なんだか楽しそうにお喋りしているみたいじゃない。わたくしも混ぜなさいよ!」
サテン生地の翠のドレスを揺らし、現れたのはエムリオ様と同じ燃え盛るような赤毛の少女。
私と同じくらいの背丈でありながら七歳年下の彼女。その姿を見た瞬間に安心感が込み上げてきました。
「全然変わらなくて実家に帰ってきたような気持ちがしますよ、レーナ様」
「何よその言い方は。そういうあなたは色々変わったようね、『裸の聖女』!」
レーナ・スピダパム王女との、半年以上ぶりの再会でした。
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