211:エムリオ様のお出迎え
セルの馬車は元々ジュラー侯爵家の馬車を引いていた馬も連結したおかげか、驚くほど早く王都入りをしました。
久々の王都は賑やかで、大通りを行くと庶民たちがこちらに手を振ってきます。セルは「やはり皆アタクシの美しさに惚れ込んでいるのですわね」なんて言って気を良くしている様子です。
しばらくそうして進んでいましたが、ふと思いついた様子でナタリアさんが口を開きました。
「ところでタレンティド公爵令嬢、このままではパーティー開始前に到着してしまいますけれど、どうなさるおつもりですの?」
「王城に立ち寄りますわ。パーティー前にエムリオやレーナ殿下とお会いしたいですし」
レーナ殿下。その名を久々に聞いて、往生に滞在していた時に共に過ごしていた赤毛の少女を私は思い出します。
彼女はエムリオ様の妹、ということは将来セルの義妹になるのでしょうか。セルとレーナ様はなんとなく似ているので気が合いそうです。
「そっか、お城にはレーナ様もいるんですね……。元気にしているでしょうか」
「気になるならヒジリもついて来てよろしいですわよ。アタクシの友人と言えば門番は簡単に通してくれますわ」
「え、いいんですか?」
思わず前のめりになる私。
異世界に来てから一番最初に交流を深めた相手がレーナ様だったので、彼女と再会できると思うと嬉しくなってしまったのでした。
「ええ。……ジュラー侯爵令嬢はいかが? ご同行いただいても構いませんが」
「私は遠慮させていただきますの。王族の方々に御目通りするのはパーティーの際にいたします。ヒジリ様をよろしくお願いしますの、タレンティド公爵令嬢」
とんとん拍子に話は進み、王城に程近い宿でジュラー侯爵夫妻とナタリアさんは待機、私とセルが王城へ行くことになりました。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
宿でジュラー侯爵家の人々と別れ、やって来た王城にて。
久々に王族と会うことに今更緊張してきます。レーナ様はともかくエムリオ様もいるわけですから、セルと一緒だと気まずいなぁという気持ちもありました。
「そこまで硬っていると不自然ですわ。肩の力を抜きなさいな」
「わ、わかりました」
城門をくぐり、大きな窓から陽の光の差す廊下を行きます。
「まずはレーナ殿下に顔合わせいたしましょう」とセルが言うので、行き先はレーナ様の部屋です。なんだか懐かしい気持ちになりながら歩みを進めていた、その時のことでした――。
「やあ、ロッティ。待ってたよ。それと……ヒジリ?」
廊下の曲がり角の向こうから不意に現れた人物から声をかけられたのです。
スラリと背の高い青年です。髪は鮮やかな赤で、美しいエメラルドの瞳が輝いています。
「ごきげんよう、エムリオ。彼女はアタクシの友人ですわ。勝手ながら連れて参りましたの」
「そうか、友人になったというのは本当だったんだね。久しぶり、ヒジリ」
爽やかな笑みを浮かべるエムリオ様のお出迎えに、私はしばらく硬直し、動けなくなってしまいました。
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