208:魔獣襲撃後の半壊馬車にて ――マディー視点――
「あーあ、ここまで跡形もなくやられるとは予想外だよ」
あたしはそう言いながら、聖女の馬車へ突撃させた魔物のわずかな残骸を拾う。
馬車は半壊していて、使い物になりそうもない。お高くとまった貴族連中の鼻っ柱を折れたような気がして、少しだけ胸がすっきりする。ざまぁ見ろ。
さらにここで聖女を殺れたら一番良かったんだけど、そううまくはいかないみたい。まったく、面倒臭いよ。
あたしとメディーは大魔女様の命令を受け、異世界から降り立ったという聖女を抹殺すべくやって来た。
あたしたちの中にある『魔女のカケラ』を使えば、魔獣を扇動するのも容易い。遠くの地から小回りが聞いてそこそこ強い魔獣を選んで連れて来て、聖女の乗っていた馬車を襲わせたのに聖女の魔法の一撃で倒されたみたい。
聖女なんて言っても別に大した相手じゃないと思っていたし、あの魔獣はそこそこ強いからもう少し頑張ってくれると信じていたのに、この結果は正直なところ期待はずれ。
きっとそれは魔獣が悪いんじゃない。ただ単純に、聖女が普通ではない強さなんだろうと思う。でも――、
「ダメだったら他の手を考えるだけだから別に一回くらい失敗したところで痛手ではないんだけどね。メディー、次はどうする?」
「……。あたしは、マディーに従うまでだわ」
「そっか。うーん、じゃあ適当に街ごとぶっ潰すのはありなんてどうかな。故郷の時みたいに」
あたしとそっくりな顔で、髪色だけが違うメディーが「それでもいいわ」と頷く。
メディーはどうも、あたしに頼りがちで控えめなところがある。姉として――と言っても双子だから歳は同じではあるけど――ちょっと心配だったりする。
「さすがにどんな相手でも、逃げ場がなかったら詰むことに変わりはないもん。あたしの火魔法とメディーの氷魔法があれば楽勝過ぎるよ」
「おまけで魔物も増やすのをおすすめするわ。聖女が魔物で手に負えなくなったところを狙って殺せば確実だわ」
「確かに。さすがメディー。いいアイデアだと思うよ」
そうとなれば早速魔物集めと、街をぶっ潰すための準備が必要になってくる。どうせやるなら面白くしなくちゃね。
聖女が向かった先はわかっているし、魔法をうまく使えば移動に苦労することはないから、慌てて追いかけなくても余裕で間に合うし。
「じゃ、行く前にささっとやるか」
あたしは手から魔法で炎を出して、壊れた馬車をものすごい勢いで燃やす。あの魔物が吐いていた灼熱の炎よりさらに高い温度で焼き焦がしたせいで要した時間はほんの一瞬だったし、メディーの氷を突き刺して火を消した後には何も残らなかった。
証拠隠滅ってやつ。行動を起こすまでは魔女の存在は大々的に知られない方がいろいろ都合がいい。これだけで後片付けは終わり。とっても簡単なお仕事だよ。
「待っててよ、聖女。あなたを追い詰めて、しっかり殺してあげるから」
――『烈火の魔女』マディーと、『氷冷の魔女』であるメディーがね。
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