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205:王都への旅路、侯爵夫人の嫌味講座

「お待たせいたしましたの」


 朗らかな笑みを浮かべながら、ナタリアさんが部屋から出てきました。

 一通り準備が終わったようです。すぐに使用人たちが馬車を出してくれることになり、まもなく出発です。


 今回の馬車旅は護衛を除けば四人で向かうことになります。

 私、ナタリアさん、ジュラー侯爵様、侯爵夫人。馬車の四人乗りは初めてですが、侯爵家の馬車はとても広く、窮屈な思いをせずに過ごせそうです。


「いざ、王都へ参りましょう」


「はい。楽しみですね」


 ナタリアさんの言葉に私は頷きました。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ガタゴト、ガタゴトと揺られながら、大通りを馬車が走り抜けていきます。

 周囲の景色は緑が多く、文明的な都市からはまだ遠いようでした。


 ここから一週間くらい、私たちは馬車を共にすることになります。

 ずっと無言というわけにはいきません。まず一番初めの話題は何にするべきか。迷いながら侯爵夫妻をこっそり盗み見ます。


 夫人は淡い青の優雅なドレス。侯爵様も仕立てのいい服を着ていて、いかにも貴族らしい風貌です。

 馬車の座席の隣同士に腰を下ろし、仲睦まじげに腕を組んでいました。


 この雰囲気を邪魔するのも悪いでしょうか。

 そんな風に考え、口を開こうかどうか躊躇っていると、侯爵夫人の方から声をかけてきました。


「そうそう、出かける際に少し慌てていて言いそびれておりました。ヒジリ様もなかなかにお可愛らしくいらっしゃいますのね。パーティーに行けば注目の的になること間違いなしと保証して差し上げますわ」


 口元を扇で隠し、ふふふ、と笑いながら目を細められます。その声に何か含むところがあるような気がしてしまい、思わずドキリとなりました。


 早速ナタリアさんと比較されているのでしょうか。可愛らしくはあるけど美人ではない、みたいな?

 などと勘繰りつつ、私は侯爵夫人を見つめ返すことしかできません。


「お母様、ヒジリ様を試すようなことはおやめになってくださいな」


「あら、わたくし別に試してなどおりませんよ? ただ、ヒジリ様も社交界に出るのであれば、色々学ばなければいけないことが多くあると思ったのです。ねえ、あなた?」


 侯爵様はこくりと頷くだけで、それ以上に口を挟むつもりはないようです。

 仕方ないという風に肩をすくめる侯爵夫人。彼女によって、嫌味についての講座のようなものが始まりました。


「……ヒジリ様、先ほどのわたくしの発言は言葉通りに受け取ってはいけません。はっきりと申しますと、ヒジリ様は背丈が低くいらっしゃるし所作がまだ不十分なところがありますので周囲の貴族、特に貴族夫人や令嬢たちにはまず侮られると心得てくださいませ。その上で必要になるのは、嫌味に対してどのような切り返しをするかです。半端な態度ではいけません」


 『可愛らしい』があからさまな嫌味だったなんて。

 貴族言葉とでもいうのでしょうか。いちいち裏の意味を含ませる貴族のやり方に、ゾッとせずにはいられません。


「じゃあどうしたら……」


「『ありがとうございます、悪意なき言葉をいただけて幸いです』とでも笑っていればよろしいのですよ。嫌味には嫌味で返す。戦場に等しい社交界において、これは常識ですわ。元平民の田舎娘と思われないためにも、習得なさいませ」


「わかりました。嫌味には嫌味を、ですね。……でもそういえばナタリアさんって、そんな嫌味をおっしゃるイメージがないのですが」


 常ににこにことしているナタリアさん。彼女が嫌味を言う場面が想像できません。


「笑顔というのもまた、武器になるものですの。無知を晒さずその上で微笑んでいれば、か弱き蝶々は寄り付かなくなりますの。ご参考までに」


「そういう方法もあるのですね。勉強になります」


 実践できるかはいまいち自信がありませんが、やるしかありません。

 そして、学園時代に私を平民だと侮っていた貴族たちに、その差を見せつけるのです。


 そう思うとなんだか王都へ行くのが楽しみになってきました。

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[一言] 貴族怖い( ˘ω˘ )
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