202:ダンスパーティーへのお誘い
「ダンスパーティーへのお誘い……ですか?」
「そうですの。夏期に行われるダンスパーティー、当家へ招待の手紙が今朝届きましたのよ。私はもちろん、ヒジリ様にもご出席していただくことになりますの」
ジュラー侯爵家でのんびりとお茶を楽しんでいたある昼下がりのこと。
「ヒジリ様にお見せしたいものが」と言われナタリアさんに一枚の手紙を手渡された私は、そんな説明を受けていました。
ちなみに手紙を包んであった封筒にはふんだんに金箔が使われているらしくキラキラと輝いていて、尋常じゃないお値段なのが窺えました。そして中央に大きな赤い紋章。
今まで何度かお茶会等の催しの招待状を受け取ったことはありましたが、ここまで豪華なのは初めてです。
それもそのはず、差出人はパーティーの主催者であるらしい国王様で、手紙の文字は全て直筆のようでした。
ナタリアさんに話を伺うと、王都ではパーティーが度々開かれるものの、今回のダンスパーティーは特別に盛大に催されるのだとか。
厄災が降りかかる年だという予言の元、女神様に祈りを捧げるためという名目があるのだと言います。
――これはまた、何か起こりそうな気配がしてなりません。でも、
「王家主催のパーティーなんて絶対に断れる響きじゃないですね……」
「当然ですの。王家からのお誘いは貴族である限り、喪に服してでもいなければ絶対参加。断ったら社交界の爪弾きものでは済みませんの」
優しい口調で恐ろしいことを言われ、思わず背筋がゾッとします。
地獄のような痛い目に遭わされたりするのでしょうか。王家に反意があると見做されて厳罰? 何にせよ、行くのは決定事項のようです。
「まあ、それほど心配なさることはございませんの。社交界の手引きは私がさせていただきますので」
ふふふ、と微笑むナタリアさん。
非常に心強くはあるのですが、実は私にはそれ以前の問題があるということを思い出してしまいました。
「やばっ……」
「いかがなさいましたの?」
「確認しておきたいんですけど、日程はいつですか?」
ある程度文字は読めるようになったとはいえ、私の見間違えかも知れません。
何せ盛大なパーティーのようですし、まさかもうすぐだなんてはず……。
「どうやら十日後のようですの。馬車での行き道を計算して、ざっと残り三日というところでしょうか?」
ああ、これはダメなやつです。
国王様、招待状を送るならもっと早くにしてください!と心の中で叫ばずにはいられません。
だって――。
「ダンスの修行をたった三日でするなんて無理じゃないですか!」
そうなのです。礼儀作法等々身につけさせてもらった私ですが、唯一ダンスだけはまだだったのです。
ナタリアさんは私を見つめ、虹色の瞳を見開きました。
「まあっ、ヒジリ様はダンスのお作法もご存知ありませんの? 貴族ほどではないにせよ、平民のお嬢さん方でも村のお祭りなどで踊っていらっしゃいますのに」
「この世界ではそうなんですね。だからメイジーが教えてくれなかったのか……」
納得と同時に、胸に焦燥感が込み上げます。
私が踊れるダンスといえば、中学生の頃の運動会のダンスだけ。しかも運動は得意ではないので出鱈目です。
そんな私があとたった三日でダンス習得しなければ、公衆の面前で笑われてしまうわけです。そうなるとジュラー侯爵家の面汚しになってしまいます。
「ひぃぃぃっ! 勘弁してください!」
「ヒジリ様であれば三日で事足りると思いますの。ですから諦めず、全力で頑張っていただきたいですの」
「ナタリアさんまでスパルタだなんて……!」
一大イベントになること間違いなしのダンスパーティー、それは始まる前から困難を極めるようです。
私は思わず天を仰ぎました。
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