198:セルとヒジリ
その後のお茶会は比較的和やかに進み、手提げ袋を片手に私はタレンティド公爵邸を後にしました。
お見上げにいただいた――というか強引に押し付けられたのは、タレンティド公爵領で採れたという宝石を使ったネックレスでした。
セルの瞳と同じ、目が冴えるような朱色が美しく輝いています。
屋敷に帰ってからナタリアさんに聞くと、アクセサリーを贈り合うのは婚約者同士かごく親しい友人に限られるという話で、それだけセルに気に入ってもらえたのかと思うとなんだか嬉しくなってしまいます。
「じゃあ私も贈り返さなきゃですね」
「私、有名な宝石店を知っておりますの。馬車をお出しいたしますの」
「じゃあお願いします」
そんなこんなで、私はジュラー領内の宝石展に連れて行ってもらい、そこで宝石を購入。
ちなみに宝石はかなり高価で、学園時代に私に危害を加えた令嬢たちからの慰謝料で買ったりしたのですが、そこは割愛します。
店にはたくさんの綺麗なアクセサリーが置いてありましたが、私はせっかくの贈り物なのだからと手作りすることを選びました。元の世界では何度か自分でアクセサリーを作ったことがあったのです。
使いたい道具がなかなか手に入らなかったり久々だったせいで作るのがなかなかうまくいかなかったりしたものの、二週間ほどやって完成したビーズのような黒水晶でできた指輪を封筒に詰めて公爵家まで送りました。
――そしてそれから数日後、再び招かれた公爵邸にて。
「別にお気になさらずともよろしかったのに。それに何ですの、この稚拙な出来の指輪は? 公爵家の娘たるアタクシがこんなもので満足するとでも思ってますのかしら」
「その割にはルンルンでつけている気がしますけど」
「これは仕方なくですわ!」
「そういうところが憎めないんですよね」
「セルロッティ様はまさに貴族令嬢然としておりますもの。下の貴族からの行為を無碍にしないそのお姿、素晴らしいことですの」
「ヒジリもナタリア様をアタクシを揶揄うのはおよしになってくださいまし。この場で一番身分が高いのはアタクシですのよ!」
口では完全なる拒絶の態度を取りながら、見せつけるように指輪を嵌めているセル。
それを見て苦笑する私。
あのお茶会があって以来、私とセルは、定期的にこうして顔を合わせるようになりました。
セルの屋敷だけではなく、私の屋敷――つまりジュラー侯爵邸にセルを呼ぶこともあります。
その時は「セルロッティ様と親しくなりたいんですの」と言ってナタリアさんも輪の中に入ってきます。ナタリアさんは打ち解けるのが早くて、場を収めるのがとても上手でとても助かります。
……まあ、その代わりというかナタリアさんがいない時は、私とセルは口先でやり合ってばかりなのですが、それすら楽しいと思えているから不思議でした。
アルデートさんとはまた違う距離感。同性の友人もいいものだなぁと改めて思う私でした。
学園であった騒動のことが嘘のように、平和で幸せなひととき。
きっと、この関係はこれからも続いていくのでしょう。
私が異世界を去る、その日まで――。
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