197:悪くないかも知れませんわ ――セルロッティ視点――
「あの……タレンティド公爵令嬢。私たち、もう敵対する必要はなくなりましたよね。せっかくならあなたとも仲良くなりたいです。友達になってくれませんか?」
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学園時代はあれほど敵対していたアタクシと聖女は一緒にお茶の席を囲み、さらには聖女が言い出して友人になってしまいましたの。
謝罪という名目ですが聖女は大してアタクシを詰る様子もなく、はしたない――と言っても以前よりは随分マシになりましたけれど――所作でお茶を飲んでいます。
淑女教育がなっていませんわね、と言いながら、しかしそこに彼女の苦労が見えてそれ以上のことは言えなくなってしまうのだから不思議ですわ。
どうしてこうなったのか自分でもよくわかりませんし、当時のアタクシには到底信じられないことだったでしょう。しかし現実なのですから仕方がありませんわ。
彼女は彼女で、何かと不便していたようですわ。
アタクシの嫉妬のおかげで学園で友達はできず、悪い噂が流れるばかり。
たった一人でこの世界にやって来て不安で、そんな中でアルデートと出会ったらしいのですが、やはり異性からですし、他の連中とも知り合い程度で、本当の友達と呼べる相手はいなかったようです。
これもアタクシの責任。
元々エムリオに近づいた先方が悪いとはいえ、少し哀れに思いましたの。
……実はアタクシも友人など一人としておりませんでしたわ。
取り巻き令嬢はたくさんいましたけれど、あれはあくまでも僕。真の友人とはとてもとても言えませんでしたわ。
ですから――ほんの少し嬉しかったのも本音ですの。
さすがに、友人に認めてやった途端にアタクシに勝手に愛称をつけて呼び始めるのは気に入りませんけれど、多めに見てやるとしますわ。
これから彼女と付き合わなければならないと思うと色々面倒ですけれど、悪くないかも知れない、だなんて思ってしまっているのも確かでしたの。
胸だけ無駄に大きくて、すぐに泣く弱虫のくせに図々しい。
そんな彼女のどこにアタクシが心を許してしまったのかはわかりませんけれど、確かなのは彼女の前にいるとなんだか気を張っている必要性が感じられなくなることですわ。
現に今だって。
「あなたの初めての友人として、私があなたの恋の応援をしてあげます!」
頼み込まれて仕方がなく過去のことを語ったら、こんなことを言われてしまいましたけれど、嫌味を返す気にもなれませんわ。
不思議なものですわね。普段のアタクシなら問答無用で突っぱねているはずですのに。
同情はいらない。でも、ヒジリの目はなんだか慈悲に溢れているように見えましたのよ。
まあきっと、ただの気のせいなのでしょうけれど。
レーナ殿下が聖魔法の効果で聖女と一緒にいると態度が軟化してしまうというようなことをおっしゃっていましたけれど、あれは本当でしたのね。
聖女……いいえ、ヒジリは恐るべき女ですわ。
初めての友人がこんな女だなんて、ついておりませんわね、まったく。
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