195:お友達になりましょう
「今までのことは水に流しましょう。それから――。
あの……タレンティド公爵令嬢。私たち、もう敵対する必要はなくなりましたよね。せっかくならあなたとも仲良くなりたいです。友達になってくれませんか?」
反省もしているようですし、学園での例の事件に関してはこちらにだって非があった。
それなら今までのことを水に流して――もう一度関係をやり直してもいいのではないでしょうか。
非常に甘い考えだということは、わかっています。
あれだけ私を痛めつけた相手です。いつまた敵対関係に立つかわかりません。それでも、アルデートさんが言っていたことが本当なら、タレンティド公爵令嬢はきっと悪い人ではないだろうと思うのです。
それに、彼女からはレーナ様と同じような雰囲気を感じます。だからきっと仲良くなれるのではないかという根拠のない希望的観測に基づく考えでした。
それに、私のせいでジュラー侯爵家とタレンティド公爵家の関係を悪くするわけにもいきません。
なんて言い訳をしつつ、実は友達が欲しいのが本音でした。
男爵令嬢のエマさんやミランダさんも親しくはなりましたし、ナタリアさんは優しくしてくれますが、なんというか親しい友人というほどではないのですよね。
一方でアルデートさんは紛れもなく友人なのですが、婚約者以外の異性はあまり親しくするなという風潮があるみたいですし。
実は私、個人的なお茶会が開けたらなぁ……なんて思っていて、そのための友人作りがしたかったのです。
扇で口元を覆ったままのタレンティド公爵令嬢が私を見つめます。
朱色の瞳が見開かれ……かと思えばツンと突き放すように言われました。
「わ、わかりましたわ。なら、アタクシがその……友人になってやってもよろしくてよ?」
相変わらずツンツンした態度で、しかし一発で肯定されます。
そのことに驚きを隠せず……私は思わず声を裏返らせてしまいました。
――正直、すぐに断られるか渋られるだろうと思っていたので。
「本当ですか!? じゃあセルって呼ばせてください!」
「セル?」
「そうです。セルロッティって名前が長くて呼びづらいので。それになんか可愛いじゃないですか。じゃあセルは私のこと、ヒジリって呼んでくれて大丈夫です」
興奮して咄嗟につけてしまったあだ名ですが、我ながら悪くないと思います。
こうしてかつて悪役令嬢と聖女として敵対していた私たちは、完全なる場の流れと勢いだけで友人になってしまったのでした。