194:元悪役令嬢はツンデレのようです
真っ赤な薔薇が咲き乱れる庭園にて、私とタレンティド公爵令嬢は向かい合っていました。
「……うん、美味しい」
「当然ですわ。我がタレンティド公爵領で取れた自慢の茶葉から作ったお茶ですもの。それにうちのメイドはお茶を淹れるのが上手いんですの」
誇らしげに言いながら、セルロッティさんは優美にお茶を啜ります。
さすが公爵令嬢。私とはまるで気品が違いますね。絵にしたいほど美しい彼女の姿に思わず見惚れてしまいました。
「ところで、ですけれど」
「……はい」
「先日の一件のこと、謝罪いたしますわ。いくらあなたがアタクシのエムリオと親密にしていたとはいえ、もう少し事情を聞いてみるべきだったかも知れないと思い直しましたの。
しかしあなたもあなたですわ。貴族学園に通っていた以上、口にはしないまでも非難の目で見られることは少なからずおありだったでしょう? それになぜ気がつきませんのかしら。呆れてしまいますわ」
謝罪しているのか貶しているのか、よくわからない言葉を浴びせられます。
少し気分を悪くしましたが、学園の頃の彼女を考えれば謝れるだけまだマシなのかも知れません。そんなことを考えながら私が黙っていると、タレンティド公爵令嬢は扇で口元を覆って、
「アタクシ、あなたに感謝していなくもありませんのよ? あなたにも聖女らしさのカケラはあったのかと驚いてしまいましたわよ。
ただしその服装はいただけませんわ。どう見たって痴女ですわ」
と、さらに追い打ちをかけてきます。
……本当にしつこいなぁ、と苦笑しつつ、私は答えました。
「まだそれを言いますか。ですから何度も言う通り、私も正直この服装だけはアレなんですけどね……。でもアルデートさんもエムリオ様――エムリオ殿下も可愛いと言ってくれますし」
「いいですわよ、もう。様付けでも何でも勝手になさい」
「じゃあ呼び捨てでいいですか?」
「それはアタクシの特権ですわよ! いくら聖女でもエムリオを呼び捨てにしていいはずがありませんわ!」
悪口を言ったり私を認めるようなことを言ったり怒ったり。
タレンティド公爵令嬢は忙しい人です。着いていくのがやっとです。
ナタリアさんがどれだけ温厚で接しやすい人なのかとよくわかりました。
タレンティド公爵令嬢はあれです、ツンデレです。まさか三次元でツンデレを目にする日が来るとは思ってもみませんでしたが、言動の一つ一つがツンデレキャラの言葉にしか聞こえなくなってきました。
例えば、私の服装のことをどうのこうの言うのは少なからず私のためを思っているから出てくる言葉でしょうし。
エムリオ様を様付けで呼ぶのを許してくれたのは、彼と友人としてなら付き合っていいというタレンティド公爵令嬢なりの許しでしょうし。
それより何より、先ほどの『アタクシ、あなたに感謝していなくもありませんのよ?』という言葉。これを聞いてしまっては疑う余地がありません。
元悪役令嬢は、生粋のツンデレなのです。
エムリオ様のことが好きで好きでたまらないのになかなか口に出せずに恋心を拗らせ、大好きな人を奪おうとした私をいじめた。そして今、なぜか好感度が上がった私はツンツンされているというわけです。
……なんだか小学生の女の子みたいです。本人に言ったらブチギレられそうなので言いませんが。
そう思うと急に、タレンティド公爵令嬢が可愛らしく見えてしまって。
散々いじめられ、時には暴力を振るわれたりした仲だというのに、なんだか彼女を許せてしまっている自分がいることに気がつきました。
私ってなんて単純なのでしょう。
我ながら自分が甘いとはわかりつつも、言わずにはいられませんでした。
「今までのことは水に流しましょう。それから――」
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