193:公爵家からの招待状、馬車の道、タレンティド公爵令嬢との再会
「――え、タレンティド公爵家からの招待状が?」
「その通りですの。タレンティド公爵令嬢セルロッティ様から。……謝罪をしたいということらしいですの。招待状はこちらですの」
アルデートさんの一件があってからそんなに日が経っていないある日のこと。
ナタリアさんはそう言って、タレンティド公爵令嬢から届いたという招待状を渡してきました。
そういえば学園での別れ際、「後日謝罪を」と言われたのを思い出します。
とうとうその日が来たということのようです。
「本当、休む暇もありませんね……」
と言っても、まだこれが序の口の忙しさであることくらい、ナタリアさんを見ていればわかります。
彼女は毎日のように色々な貴族家で開かれるお茶会に参加しているのです。それぞれの領地が遠い分、その移動距離は恐るべくものでしょう。
それに比べたら私はまだマシ。
そう思い、「面倒臭い……」と呟きそうになるのを我慢したのでした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「カーテシーのやり方は」
「こうですよね」
「貴族家へ言った時の挨拶は」
「『本日はお招きいただき誠にありがとうございます。ジュラー侯爵家の養女となりましたサオトメ・ヒジリです』……です」
「お茶の飲み方を実践して見せてくださいませ」
「カップの持ち手を左から右に回して、香りをたっぷり堪能して、それから口をつけて感想を言う、でしたっけ」
「他家に出しても恥ずかしくないほどの所作は身につけましたね。ではお気をつけて行ってらっしゃいませ、ヒジリお嬢様」
「……では、行ってきます」
メイジーに一通りの所作の確認をされた後、私はジュラー侯爵家を送り出されました。
馬車で向かう先はタレンティド公爵家。ジュラー侯爵家から別の貴族家の領地を挟んで二つ隣で、比較的近いと聞いています。
だからすぐに着くだろう……そんな風に思っていた私は甘かったです。甘過ぎました。
いつまで経っても着かない。
ジュラー侯爵領を出るだけで一日近くかかり、公爵領と侯爵領の間を駆け抜けるだけで半日。
それだけでも長いのに、タレンティド公爵領に入ってから全く公爵邸が見えてこないという時間が続きました。
今回の馬車旅は一人。話し相手もいないから退屈で仕方ありません。
ジュラー侯爵領も相当ですが、タレンティド公爵領、尋常じゃなく広い。
結局着くのに合計二日半かかってしまいました。
そして着いた先の公爵邸も、国民何人分のお金がかかっているのかと言いたいくらい広大でした。
お城とどっこいどっこいか、大きいような気すらします。さすがスピダパム王国内最大の貴族家は、格が違いました。
「うわぁ……」
私が屋敷を見上げ、声を漏らしたその時でした。
背後から突然声が聞こえたのは。
「あら、もういらっしゃいましたのね」
「――っ!」
驚いて振り返ると、そこにあるのは金髪縦ロールに鮮やかな真紅のドレスの女性の微笑。
いつの間にそこにいたのでしょう。全く気配を感じませんでした。
その美貌を忘れるはずがありません。彼女こそが、学園を卒業してから実に久しぶりの再会となるタレンティド公爵令嬢セルロッティさん、その人でした。
もういじめられることはないとわかっているのに、彼女を見て震えてしまいます。
でも私はそれをなんとか抑え、メイジーに教えられた通りの挨拶をしました。
「お久しぶりですわ、『裸の聖女』様。ようこそおいでくださいました、我がタレンティド公爵邸へ。驚いたでしょう、アタクシ自慢の屋敷ですのよ。
侯爵家の養女になったとお聞きしましたから、てっきりドレスでいらっしゃると思っておりましたのに、どうしてその半裸姿でいらっしゃるのかしら?」
自信満々に言うその姿は、学園の頃とまるで変わっていません。
毒舌さも含めて……。
「す、すみません。いや、外で魔物の襲撃に遭ったら困るじゃないですか? ドレスじゃ戦いにくいからってこんな格好になってしまって。私もドレスの方がいいんですよ、そりゃあ。というか本当はドレスで来るつもりだったんです。でもナタリアさんが身の安全を優先するようにっておっしゃるから」
「はぁ……相変わらずですわね。仕方がありませんわ、そんな破廉恥な姿で外に突っ立っていたらたとえ仮初のものだったとしても侯爵令嬢の名が泣くでしょう、早くお入りなさいな」
ため息を吐きながらも、私をタレンティド公爵邸の中に招き入れてくれるタレンティド公爵令嬢。
私は彼女の後に続いて屋敷の中へと足を踏み入れたのでした。
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