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191:妙な気持ち ――アルデート視点――

 隣を歩く彼女は、侯爵家の養女となっても初めて会った時とまるで変わらない、普通の女の子だ。

 少しだって着飾ったところがない。歩き方は相変わらず下手くそだし、喋り方だって平民騎士の娘よりなっていないくらい雑。

 なのに彼女のキラキラした笑顔は、他の令嬢にはない輝きを放っている。それにあてられそうになり、俺はサッと顔を背けた。


 サオトメ・ヒジリはおかしな少女だとつくづく思う。

 泣き虫のくせに強くて、格好良くて。かと思えば弱音を吐いて、すぐ泣いて。

 聖女と凡人。それを併せ持っているのだ。


 彼女といると妙な気持ちになってしまう。

 王太子殿下が彼女を寵愛するのもわからなくはない、ふとそう思い、何を考えているのだと唖然となった。


 俺とサオトメ・ヒジリは親しい友人として振る舞っている。それ以上でも以下でもない。

 結局のところ、異邦人な彼女とは住む世界が違うのだから。


「……どうしたんですか、アルデートさん。何か考え事でも?」


「いや、別に何でもない」


「ならいいですけど。……それにしてもジュラー侯爵領って広いんですね。これだけ歩いても、まだ周り尽くせないくらいだなんて。もう少し歩きます?」


「いや、もういい。慣れないドレス姿じゃ君も辛いだろうし」


「うぐっ。で、でも、これはお礼なんですから私のことなんて気にせずに!!」


 一応今俺と彼女は、俺が彼女に尽くしたお礼という名目でジュラー侯爵領の案内を受けているのだが、実質楽しんでいるのは彼女の方だと思う。

 もちろん俺だって実りのある時間だと思ってはいるが、あまり彼女を無理させるわけにはいかない。ドレスを着た足元はおぼつかなくなってきているし、疲れが顔に出ている。


 異世界でも平民だったというのだから、ドレスやコルセットなんて今まで無縁だったのだろう。そこへ突然養女の話が来て苦労しているのだと、先ほど彼女が愚痴を漏らしていたばかりだ。


 ――本当は、もう少し彼女と話していたい。

 胸に湧き上がる感情をグッと押し殺すのが大変だった。


「なら! アルデートさん、今晩はうちに泊まっていきません? また明日、服を着替えて出直しますから」


「常識的に考えてそれは無理だろう。俺はジュラー侯爵家の恩人というわけでもないし、ましてや侯爵邸には未婚の令嬢が二人もいるんだぞ」


「ナタリアさんは婚約者がいないって言ってましたけど、やっぱりダメですかね。どう思いますかメイ」


 メイドの名前を呼ぼうとして、彼女の言葉が途切れた。

 何事かと思って見てみれば、彼女の小柄な体が大きく傾いでいる。振り向きざまにバランスを崩したらしいと咄嗟に察した俺は、気づいたら彼女を受け止めていた。


「「……ぁ」」


 俺と彼女の声が重なり、ばっちり視線が交わる。


 なぜなら俺が、彼女の体を両腕でがっちりと抱え上げてしまっていたからだ。

 ぽぅっと彼女の顔が赤く染まる。それと同時に俺は高速で脳内で言い訳を紡いでいた。


 咄嗟だったんだ仕方がなかっただろう第一彼女が川に落ちた時だって抱え上げたじゃないかいや違うあの時は最新の注意を払っていたが今の俺は彼女のたわわで柔らかな胸と密着して――。


「ビューマン伯爵令息」


 背後から刺すような声がして、振り返るとそこにはメイド服の少女の姿。

 やばい。俺の背中に冷や汗が流れた。


「ヒジリお嬢様を抱きかかえたこと、きちんと責任は取っていただけるのでしょうね?」


 このメイド、そういえば見覚えがある。

 うちのビューマン伯爵家より金持ちな別の伯爵家の、次女だか三女だかだ。ジュラー侯爵家でメイドとして奉仕しているらしいが、先方が有利な立場なのは変わらない。


「す、すみません……」


 俺は平謝りして、サオトメ・ヒジリを地面に下ろすしかなかった。

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