190:お出かけしましょう
「お礼と言われてもな……。今回は俺が勝手に来ただけだし、学園の時も君が見ていられなくて助けただけだから、見返りなんていらないんだが」
「わかってます。それでもです」
「君は気弱なくせに、そういうところは意外と頑固なんだな。
じゃあ、そうだな。俺にジュラー侯爵領を案内してくれないか」
アルデートさんからされた提案。
それに私は首を傾げました。
「そんなことで、いいんですか?」
「学園を卒業してからずっと、親父から『次代当主になるために』とか言われて領地経営の勉強三昧なんだよ。たまには羽を伸ばしたい。ついでにジュラー侯爵領の内情もある程度把握しておきたいしな」
「わかりました」
わかってはいたことですが、アルデートさんは本当に欲がないです。
でももっと大きな対価を求められたら私に叶えられるかはわからなかったので、そういうところに気を遣ってくれるところがアルデートさんの優しさなのでしょう。
エムリオ様なら絶対、『君といられるだけで幸せさ』みたいな浮ついたことを言いますものね。優しいには優しいですが、今思ってみればかなり気持ち悪いです。
――ともかく。
「じゃあ、一緒に行きましょうか」
私はアルデートさんと一緒に、初めてのお出かけをすることになりました。
と言っても監視役のメイジーがきちんといますから、断じてデートではありませんけれど。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ジュラー侯爵領へやって来てそこまで日数は経っていないものの、侯爵領の人たちは本当に優しくてすぐに打ち解け、仲良くさせていただいています。
領地案内の途中、私の姿を見つけたジュラー侯爵領の平民の子供たちがワッと群がってきて「遊ぼ遊ぼ!」とねだってきます。異世界では子供くらいの身長しかない私は、遊び相手としては最適なのです。
ですが子供たちは少し、いいえかなり乱暴なところがあるのが困りますが。
「……随分と親しまれてるんだな」
五人くらいの子供に乗っかられ、押し潰されながら、私は半笑いしました。
ああ、ドレスじゃなくて聖女のビキニに着替えておけば良かった……。後悔してももう遅いというやつです。
「そうなんですよ。ちょっと子供たちには困らされることはありますけど、もうすっかり仲良しで」
「……ヒジリお嬢様」
「メイジー、お説教は後にしてください。お願いしますから」
鋭い視線でこちらを睨み、何かを言いたげなメイジーを黙らせ、しばらく子供たちと遊んだ後、領地案内を再開させます。
アルデートさんと並んで外を歩くのはなんだか新鮮で、部屋でいる時以上に色々と話しまくってしまいました。
領民たちと接する中で覚えた色々な話とか、ナタリアさんに教えてもらったジュラー侯爵領の伝統行事のことなど。少し喋り過ぎてメイジーに怒られてしまったくらいです。
「ヒジリお嬢様、あまりにも羽目を外し過ぎでございます。もっと淑女としてのご自覚をお持ちくださいませ」
「……すみません」
叱られてしょげる私でしたが、「君がそんな楽しそうにしているところは初めて見た」とアルデートさんは笑ってくれました。
アルデートさんは素の私を認めてくれる。そのことが嬉しい一方で、やはり淑女への道のりはまだまだ遠いと実感させられます。
「俺としては、そのままの君の方が好ましいが」
「ダメですよ、アルデートさん。私は今までの早乙女聖じゃなく、一応はジュラー侯爵令嬢なんですから。学ぶことは学ばなきゃいけないんですから」
「そうだな」
そんな風に話しながら、私はアルデートさんを案内して先に進み続けるのでした。
お礼のはずだった領地案内という名のお出かけをアルデートさん以上に楽しんでしまった気はしますが、それはとても楽しく、のどかな時間でした。
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