19:王城での日々
「あれ……ここは」
気がついたら私はベッドの上で横たわっていました。
やはり我が家の硬いベッドではなく、ここは異世界で私にあてがわれた部屋の豪華すぎるベッドで間違いありません。でもおかしなことに、私は昨夜ここで眠った記憶がないのですが。
「やっと目を覚ましたのねこの馬鹿聖女!」
首を捻りながら状況確認していると、突然頭上からキィキィ声が降って来ました。
ああ……これは確かこの国の王女様でしたか。名前は忘れてしまいましたが。でもどうして王女様の声がするのでしょう?
その時私は思い出しました。あの巨人――ニニにたっぷり痛い目を見せられ、ふらふらになっていたことを。
きっと私はあのまま倒れてしまったのでしょう。修行一日目にしてぶっ倒れるなんて、我ながら情けなさすぎます……。
「それにしても意外ですね。最後に喋っていたのが王女様といえ、あなたが無関係の私なんかの枕元にいるのはちょっとおかしくありません?」
「何よ、わたくしがここにいるのが気に入らないというの!? 目の前で倒れられてもみなさい、そりゃ少しは心配するじゃない! ……あっ、別に貴女を気にしたわけではなく、せっかく召喚した聖女がたった一日で使い物にならなくなったら、父様の威信が失われるからよ!」
赤毛をぶんぶん振り乱しながら怒鳴る少女の姿が私の目の端に映りました。こうして見ると少し可愛いかもしれません。可愛いなんて思うのは失礼なんでしょうか。
まあ、確かに召喚してすぐに聖女がこんなことになるのは困りますよね。でもニニの修行があまりにもきつかったんですよ。あれ、もはや拷問でしたもの。
あれをきっと明日もするんでしょうね……。それだけで気が滅入ります。
ため息を堪えながら身を起こすと、私は今も相変わらずのビキニ姿であることに気づきます。改めて恥ずかしいと思いつつ、寝間着を探して適当に羽織りました。
この世界に季節という観念があるのかは知りませんが、もし冬が存在するとしたらビキニはきついですよね。でもニニが言っていたによれば露出が多い方が力が出しやすいんですよね。ああ、困った。
「何考え込んでんのよ『裸の聖女』。まだ昼よ。さっさと聖女としての務めを果たしなさい」
「聖女の務めって何ですか?」
「結界を張るとか病に苦しむ民を治療して回るとかよ」
……いや、それハードル高すぎですって。私にできるとでもお思いですか?
そうツッコミたくなるのを必死に我慢し、私は曖昧に首を振っておきました。未だニニにしごかれたのが効いており、全身が痺れるように痛んでいます。
「はぁ、仕方ないわね。じゃあわたくしが特別にこの城を案内して差し上げるわ。ついて来なさい」
いや、王女様、私まだ体力回復してないのですけど……。
そう言う暇もなく、私は王女様に手を引かれて無理矢理連れ出され、城中を回らされることになったのでした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
結果から言いますと、スピダパム王城巡りはなんとか無事に終わりました。
仲良く手を繋いで走っている私と王女様を見てメイドの皆さんにニヤニヤされたり、ニニに見つかって思わずガタガタ震えてしまったりしたのですが、そこは割愛。
お城にはおとぎ話に出て来そうな宝石や高価な骨董品が山のようにあって、その都度驚かされてしまいました。宝石一つで家が買えてしまうんじゃないかと思うくらいの価値はありそうです。異世界凄すぎ。
「どう? 多少は気が紛れたかしら」
「はい、元気になったみたいです。王女様、ありがとうございました」
「ふんっ。エセ聖女、貴女はこれからしばらくこの王城で生活するのだから慣れておきなさいよ。じゃあ、わたくしは弟の面倒を見なければならないから」
最初は嫌な奴――王族に対しては失礼な言い方なのかも知れませんが――と思っていた王女様ですが、意外にいい子のようです。気づいたらこの世界に来てから一番親しい間柄になっていました。
ちなみに年齢は十歳。予想以上に幼かったので驚きですが、なんだか妹ができたみたいな感覚です。今日初めてあったはずなのに不思議な話ですけどね。
……ともかくそんなこんなで気づいたら二日目が慌ただしく終わっていて。
三日目の朝、またニニにたっぷり魔法を使う方法を叩き込まれてヘトヘトになったりしつつ、あっという間に時間が過ぎていきます。
家に帰れないのがたまらなく寂しくなる日もありましたが、意外にも王城での日々は楽しいものでした。
毎日贅沢すぎるご馳走ばかりですし、話し相手は王女様がいたのでちっとも困りません。庭園を散歩するだけで夢心地になれました。
私はいつしか、こうして非現実的な時間を過ごすのも悪くないなぁと思うようになっていたのです。
まさかこれが順応という奴でしょうか。住めば都とよく言いますがあれは本当だったのですね。怖いくらいです。
ただまあ、相変わらず聖女修行は地獄級の過酷さなので嫌なんですけどね……。頑張る他ないので仕方がありません。
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