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189:お礼をさせてください

 アルデートさんは、学園の時に着ていたものより随分上等と思える漆黒の礼服に身を包んで、私の前に現れました。


 その衣装のおかげで綺麗な銀髪、そして菫色の瞳が際立って、輝いて見えます。その姿は一見すると王子様のようでした。

 ……まあ、本物の王子様がいるこの国において、王子様のようだなんて例えるのは失礼なのかも知れませんが。


「ジュラー侯爵令嬢ナタリア嬢、そしてヒジリ嬢。お迎えいただきありがとうございます。手紙が届くのが遅れ、突然の訪問となってしまい申し訳ありません」


「いえ、ビューマン伯爵令息はヒジリ様のご友人でいらっしゃいますので全く構いませんの。ヒジリ様、ビューマン伯爵令息がいらっしゃるのを楽しみにしていらっしゃいましたの」


「えっと。アルデートさん、こんにちは……じゃなかった、ご機嫌よう。どうぞ私の部屋へいらしてください」


 アルデートさんに丁寧口調をされると、なんだか戸惑ってしまいます。

 ナタリアさんはすぐに「(わたくし)はお邪魔ですので」とどこかへ消えていき、私はアルデートさんと一緒に自室へ向かうことになりました。


 部屋までの道中、アルデートさんがやたら私の容姿を褒めてくるので気持ち悪かったです。

 エムリオ様ならともかく、今までそういうことに割と無頓着で飾り気がなく、話しやすいと思っていたアルデートさんにやられると調子が狂います。でも今は名目上、お互いに貴族同士。きやすい付き合いはできないのかも知れません。


 が、そんな私の心配は全くの杞憂で、部屋に入るなり、彼は王子様風の仮面を脱ぎ捨てました。


「……で、一体どういうことなんだ、よりによって君がジュラー侯爵令嬢になるだなんて」


 開口一番に飛び出したのがその一言。

 その口調、そして態度は、いつものアルデートさんでした。


 一気に肩の力が抜けた私は、笑いながら問い返します。


「どうしてだと思います?」


「国王陛下の計らいではないだろうな。そうだとしたら、もっと前に爵位を与えられているはずだ。

 セデルー公爵家の計らいか? セデルー公爵令嬢とジュラー侯爵令嬢は親しいと聞くからな」


「ご名答です。でも改めて考えてみると突拍子もない話ですよね、本当に。おかげで私、毎日息が詰まりそうですよ。

 じゃあ次、私が質問していいですか。アルデートさんはどうしてわざわざジュラー侯爵邸にいらしたんです? ビューマン伯爵領からここまで、決して近いわけではないですよね?」


 貴族の屋敷はいちいち距離が離れているので、簡単に来られるようなものではないはず。

 となると、アルデートさんにも何かしらの深い意図があって当然と考えたのですが、お人好しなアルデートさんに限ってそんなことはありませんでした。


「言っただろう、君の無事を確かめたかったんだ。ジュラー侯爵家の養女になったって聞いたから腰を抜かして、もしも君が困ってるんだったら助けてやろうとも考えていたが……心配なさそうだな。ジュラー侯爵令嬢に拾われたのが幸いだったと言えるだろう。別の貴族なら、ここまでの高待遇はないと思うぞ」


「そんなものなんですか?」


「大体の場合別邸にでも押し込められ、いいように使われて終わりだろう。最悪、適当なところへ嫁いで私腹の肥やしにされるかもな」


「怖っ。確かにそう思えば信じられないくらい高待遇ですね……」


「君は聖女だから、女神の加護を受けてるんだろう」


 とてもそうは思えませんが、一応頷いておきました。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 しばらくそんな話や、慣れない貴族生活のちょっとした愚痴をこぼし、そして学園で起こった婚約破棄騒動の顛末を聞いたりして楽しく過ごしました。

 が、楽しい時間はあっという間。二時間ほど経った頃、「ではそろそろ」と言ってアルデートさんが立ち上がってしまいます。


「あ、ちょっと待ってください」


 せっかく来てもらったのに何も返せぬまま、お茶を出して話すだけでは失礼なのではないかと思ったのです。

 もちろんアルデートさんがそんなことを全然気にしない人であるのは知っていましたが、それでも。


「学園の時も、今も、すっごく気にかけてもらってるのに、何も返せないのは申し訳ないです。なので私に何かお礼をさせてはくれませんか」


「礼? 俺は別に君の顔が見られただけで」


「押し付けがましくて申し訳ないです。でも借りは必ず返すのが貴族なのだと、メイジー……教育係のメイドに言われました。だからってわけじゃありませんが、とにかくお礼をさせてください」


 ――お礼がしたいなんて実は言い訳でしかなく、本当はアルデートさんともっと一緒にいたいからだなんて。


 自分でもその事実に気づかぬまま……いいえ、気づこうとせぬまま、アルデートさんにお願いしたのでした。

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