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188:アルデートさんの訪問

 学園を卒業してから一ヶ月。そしてジュラー侯爵家に滞在するようになって半月ほどが経ちました。

 それは、淑女教育に疲れ果てていたある日のこと。ジュラー侯爵家宛て……というより私宛てに一通の手紙が届いたのです。


「ヒジリ様、お手紙です」


 メイジーに手渡されたそれを、私は広げて読んでみます。

 差出人の名前を見て、思わず声を上げました。


「アルデートさん……!?」


 アルデート・ビューマン伯爵令息。

 失礼ながら、ここしばらく忙しさで存在を忘れかけていた彼からの手紙に驚きを隠せません。


 そして手紙の内容はというと、顔が見たくなったから五日後にこの屋敷に伺いたいというもの。

 もう出発していると書いてありました。どうせアポを取るなら出発前にしてほしいんですが。断らせないための方策なのでしょうか?


 別に私的には全然構わないのですが、いくら養女になったとはいえ人様の屋敷に自分の知り合いを招き入れていいものだろうかと悩んでいると、いつの間にかナタリアさんが背後に立っていました。


「あらヒジリ様、恋文ですの?」


「――っ。な、ナタリアさん、これは、その」


「恥ずかしがらなくても良いですの。ビューマン令息とヒジリ様はなかなかお似合いだと思いますのよ? ビューマン令息はあまり貴族らしくないですけれどそういうところがヒジリ様は好ましいのでしょう? (わたくし)、陰ながら応援させていただきますの」


 誤解されてます、完全に。

 私とアルデートさんはあくまで友人でそれ以上でも以下でもないのに、今更弁明しても聞き入れてもらえなさそうです。

 どうして令嬢って色恋沙汰に興味があるのでしょう。自分が自由恋愛できないからでしょうか。でも日本にもいましたよね、やたらと他人の恋愛に首を突っ込んでくる人って……。


「違うんですただアルデートさんはここに来たいって言ってるだけで他意はないと思いますもちろん私も彼とは親友だというだけで別に何でもないですから安心してください恋人とかは絶対に違いますから私釣り合いませんから!」


 一息に叫ぶと、私は恥ずかしさに両手で顔を覆ってしまいました。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 アルデートさんは、ジュラー侯爵家よりは下位とはいえ歴とした貴族家の令息です。

 彼をお迎えするにあたって、ジュラー侯爵家のメイドたちは忙しなく動き回りピカピカに屋敷を磨き上げ、そして私もメイジーにばっちり着付けをされてしまいました。


「学園ではずっとビキニでしたし、アルデートさんの前なら別にここまで着飾らなくてもいいんじゃ」


「いけません、ヒジリお嬢様。侯爵令嬢としてのご自覚が足りませんね。私奴がもう一度初めから教えて差し上げてもよろしいのですよ?」


「じょ、冗談です冗談。ははは……」


 コルセットのせいで息が詰まりそうになりながらも、私は愛想笑いを浮かべます。再教育だけは勘弁ですからね。

 そうこう言っているうちに時間は過ぎていき、いよいよ時間になりました。ぼぅっと窓の外を眺めていると、大きな馬車が屋敷の外に停まるのが見えました。辺境伯寮に行く時に乗せてもらったことがあるのでわかります。あれは間違いなく、ビューマン伯爵家の馬車です。


 つまり――。


「本当に来てくれたんですね」


 今この時になってようやく、アルデートさんがわざわざ訪ねて来てくれたということを実感して、小さく呟きます。

 そしてドレスのスカートの裾を両手で持ち上げると、アルデートさんをお迎えするために玄関まで向かったのでした。

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