187:淑女への道のりはまだまだ遠い
「淑女への道のりはまだまだ遠いようでございますね、ヒジリお嬢様。はっきり申しまして私奴、とてもとても直視していられませんでした」
お茶会が終わってすぐ、疲れ切ってベッドに倒れ込んだ私に投げかけられた言葉がそれでした。
あまりにも厳し過ぎるその一言に私は沈黙する他ありません。抗議する気も起こらないほど疲れ切っていたのです。
話は少し前、お茶会の席まで戻ります。
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危うい会話をなんとか誤魔化し続け、ご令嬢方の談笑に混じっていた私。
できるだけ目立たぬよう、影のような存在を意識して。……ですが、どうしても私に注目が集まってしまうようで。
学園生活のことを聞かれたり、それぞれの令嬢の弟などを「ぜひ聖女様の婚約者に」と勧められたり、「うちのお屋敷までぜひ」とややしつこくに誘われたりもしました。
ミランダさんは知っている仲なのでまだいいですが、アンディス子爵令嬢の強引さとロリータ伯爵令嬢の口の巧みさが恐ろしくてなりません。気づいたら相手の思惑に乗せられている、そんな感じです。
きっとナタリアさんが隣にいてくださらなければ簡単に押し負けて、成り行きだけで婚約者ができていたり国中を癒して回らなければならない事態になったかも知れません。そう思うとゾッとします。ナタリアさんはさすがの話術で話題を逸らしたり逆に令嬢方の口を割らせたりしていましたが……。
噂好きとまで言われる社交上手なナタリアさんと私を比べ、めげてしまうのも致し方なしでした。
コルセットはどんどん私の胃を締め上げ、飲んだお茶を吐き出しそうになったことが一体何度あったでしょうか。
後半になると話すだけで辛くなり、ほとんど黙っていました。笑顔もどんどんなくなっていって、最後の最後にはもはや幽霊のような顔色をしていたと言います。
それでも精一杯頑張って頑張って頑張ったんですよ、私?
三時間座り続けで、緊張しっぱなし。身体的な苦痛も極まって、嘔吐しなかった自分を褒めてあげたいくらいです。
皆さん楽しそうにお茶を嗜み、お茶や茶菓子の味に言及してはあの領地で生産されるお茶はどうだのこの領地での麦はどうだのと話しているのが不思議でなりません。それが淑女なのであれば、私には無理でした。
「じゃあ、また遊びに来るね。聖女様」
「失礼いたしました」
「ヒジリ様、お元気で。次にお会いする時の成長ぶりが楽しみです」
客人である三人が去った後、顔面蒼白な私をナタリアさんが担いで中へ。
深窓のお嬢様然としているナタリアさんの手を煩わせてしまって、申し訳ない限りです。
……そして場面は冒頭に戻り、私の失態の一部始終を見ていたメイジーから容赦ない言葉を投げかけられたのでした。
ミランダさんは次に会う時が楽しみだなんて言ってくれましたが、私なんかがまともなマナーを身につけ、淑女として認められる日がやって来るのはいつになるでしょうか……。
本当に、淑女への道のりがまだまだです。
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