186:お茶会に参加してみます
それから三日ほどして、お茶会の日がやって来ました。
お茶会が開かれるのはジュラー侯爵邸の一角、やたらと広い庭園。中央に真っ白なテーブルクロスがかけられた金の机が置かれており、そこでお茶会が開かれる模様です。
たっぷりおめかしした私は、銀の椅子に腰掛け、息苦しいのを我慢していました。
親しい間柄でのお茶会とはいえホームドレスで参加できるわけもなく、しっかりしたドレスを着ているせいで体がガチガチになって動きません。ドレスに飾られた宝石が重たく一秒ごとに私の体力を奪い、そしてコルセットが殺しにくるようでした。
メイジーの言っていたことは本当だったようです。想像通り、いいえ想像を遥かに超えた苦しさ。でも喘ぐことすらできず笑顔を浮かべていなければならない。苦行でした。
お茶会の場にに集まっているのは五人。
主催であるジュラー侯爵令嬢ナタリアさん。そしてミランダさんに、アリス・ロリータ伯爵令嬢、ジュリエラ・アンディス子爵令嬢。そして私、早乙女聖。
アリスさん……もといロリータ伯爵令嬢とは一度会ったことがあったのを思い出しました。あれは確かミランダさんの友人として紹介されたのでしたか。つい数ヶ月前のことだったのになんだか随分昔の話な気がします。
一方でアンディス子爵令嬢に会うのは初めてでした。
香り高いお茶の匂いが漂う中、お茶会が始まります。
まず一番目に話題になったこと。
それは言わずもがな先日ジュラー侯爵家に養女として入ったばかりの私についてでした。
「ナタリアが聖女様を義妹にしたって聞いたけど本当だったんだね。すごいじゃん!
いいなー、アリスもナタリアもミランダ様まで先に聖女様と会ってずるい。私ももっと仲良くなっておきたかったのに。
ねぇねぇナタリア、どんな政略的な思惑で聖女様を義妹にしようと思ったの?」
興味津々な様子で前傾姿勢になって尋ねるアンディス子爵令嬢。彼女の瞳は好奇心に爛々と輝いていました。
事前にナタリアさんに言われていたのですが、貴族令嬢というのは基本詮索好きな生き物。隙さえあれば情報を拾う、それが社交界での生き方なのだそうです。そしてナタリアさんはそれが上手い方なのだとか。
私には絶対無理だなぁと思ったりしたのですが、それはさておき。
「別に思惑なんてございませんの。この国を救ってくださるヒジリ様がお困りだというのですからできる限りで尽力する、それが王国の臣下である私たちのお役目でしょう?」
ナタリアさんは笑顔で華麗に質問をかわしました。
きっと彼女にも思惑は色々とあるとは思うのですが、いくら友人とはいえ簡単に口に出すようなことではないでしょう。
「……ジュリエラ嬢、そんなことをヒジリ嬢の前でお話しすべきではないと思いますよ」
「ナタリアが困っていらっしゃるじゃありませんか」
そして一方のアンディス子爵令嬢は、ミランダさんとロリータ伯爵令嬢にたしなめられていました。
が、当の彼女は「えーいいじゃない別に」と平気な顔で笑っています。アンディス子爵令嬢はあれですね。空気が読めないかあえて読まないタイプですね、多分。
話題を逸らすため、私は別の話題をぶっ込めないかと考えます。
が、どこまで相手のことを訊いてもいいのかとか、この場に相応しい会話は一体何なのかなども一切わからない状態では下手に口を挟んだ方が都合が悪くなる可能性もあると思い至り、やめました。
――この場は基本ナタリアさんに任せ、何かを問われた場合にだけ答えましょう。きっとそれがいいです。
そう心の中で呟き、息苦しさに引き攣る口角をぐっと引き上げ、基本は皆さんの話に耳を傾けることにしたのでした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
背筋を正し、笑顔を浮かべ続け、問われたことに答え、皆さんの話に相槌を打つ。
ただそれだけ。ただそれだけなのに体力と精神力の消耗が激しいです。心の奥底まで覗いてくるような視線。そして、なんとも答えづらい会話の内容。
「ヒジリ様の初恋の殿方はどなたなのです?」
例えばなぜだか会話の流れで好みの男性の話になってしまった時、ロリータ伯爵令嬢にそんな質問を投げかけられた私はうっかり手に持っていた茶菓子を落としそうになりました。
まさかこの場でこんな会話が飛び出してくるなんて。完全に予想外でした。なんとか誤魔化せましたが、心臓が止まるかと思ったくらいです。
それからもしばらく危うい会話が続きました。
失言していないといいのですが……心配です。
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