184:貴族は想像以上に大変です①
「お初にお目にかかります、ヒジリお嬢様。私奴はメイジーと申します。本日よりヒジリお嬢様の専属メイドとしてお傍に仕えさせていただきます」
「これからよろしくお願いしますね、メイジーさん」
ナタリアさんの隣にあてがわれた、今日から私の自室となる部屋。
王城で滞在していた時に用意されていた部屋よりは若干狭いように感じますが、豪華さは少しも引けを取らないその部屋で私を待ち構えていたのは、明るいオレンジ色の髪をしたメイド服の少女でした。
私も今日からお嬢様。専属メイドがついて当然なのでしょう。
しかし私は根っからの庶民。自分のことは自分でできますし、人を顎で使える自信もないのですが……。
「ヒジリお嬢様、私奴はメイドでございます。お嬢様と私奴は主従関係。ですので、呼び捨てにしてくださいませ」
「え、でも」
「私奴のことはぜひメイジーと」
「……わかりました。メイジー、よろしくお願いしますね」
学園の時も思っていましたし今も思うのですが呼び方にこだわるのって正直言っていちいち面倒くさいです。それに初対面の人を呼び捨てにするのは抵抗がありました。
でもあまりにメイジーが有無を言わせぬ様子で呼び捨てを強要されたので、マナーなら仕方がないと受け入れます。
お嬢様になるってこういうことなのか、と初めて実感した瞬間でした。
などという考えに浸っている暇もなく、メイジーに声をかけられました。
「ヒジリお嬢様。お茶をご用意いたしました。お口に合うかはわかりませんが」
「えっ、いつの間に」
見ると、テーブルの上にカップが一つ。
一見すると緑茶のような見た目ですが、匂いからしてハーブティーに近いかも知れません。私は椅子に座って飲もうとしました、が――。
「ヒジリお嬢様、お待ちください。所作がなっておりません」
「しょ、所作?」
「私奴、ナタリアお嬢様よりヒジリお嬢様の教育をお任せいただいているのです。ですから遠慮なく申しますが、ヒジリお嬢様の所作は平民の娘よりも雑でございます。
カップの持ち方はそうではなく、ぐるりと持ち手を右側に回して持つのです。そしてお茶は一気に飲むのではなく香りを味わうところから……」
メイジーの説教、というかマナー講座はそれからしばらく続くことになります。
元の世界を含め今まで割と所作に無頓着に生きてきた自覚があるので、全て耳の痛い話でした。
それと同時に納得したこともあります。
学園の寮で過ごしていた時、寮仲間との関係性が悪くなる前にも食事時には決まって変な目を向けられていたのです。私はその意味に気づくことはありませんでしたが、あまりにマナーがひど過ぎる私を咎めていたということだったのでしょう。
それが貴族令嬢たちに嫌われた理由の一つだったりする可能性は大。
羞恥心と後悔が込み上げてきましたが今更でした。
ともかく。
「ヒジリお嬢様には所作の訓練を受けていただきます。私奴、これでも元は伯爵家の三女として生まれた身。ヒジリお嬢様に教えて差し上げられることはかなりございますからご安心くださいませ」
「それってやっぱり厳しいんですよね?」
「もちろんでございます」
げぇぇ……と内心で呟き、引き攣った笑顔を浮かべる私なのでした。
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