183:お義父様とお義母様、お義姉様ができました
私は契約書にサインしました。
まだ板についていないこの世界の『ヴォラティー文字』で、自分の名前を書いていきます。多分下手くそですが仕方ありません。それをジュラー侯爵様に渡してしまえば、契約成立。
……これが何の契約かといえば、もちろん言うまでもなくジュラー侯爵家へ養子として入るための契約です。
つまり今この瞬間から、私はサオトメ・ヒジリではなくヒジリ・ジュラーとなったわけですが。
「違和感しかないんですが……」
「養女と言っても名目上の話ですの。聖女様、いいえヒジリ様には本日以降も故郷でのお名前を名乗ってくださって構いませんの。ヒジリ様をジュラー侯爵家の娘としてどこかへ嫁がせるつもりは毛頭ございませんもの」
「そうですか。それなら少し安心です。えっと、それで呼び方どうしましょう。お義姉様でいいんですか? それとも、ジュラー侯爵令嬢と呼んだ方が」
娘というよりは同居人という感覚に近いのかも知れません。この世界の文化として養女がどういう扱いになるか、正直まだよくわかっていないのですけど。
「……ヒジリ様に義姉とお呼びいただくのは身に余る光栄ですので、私のことは呼び捨てにしてくださって構いませんの」
「わかりました。じゃあ、ナタリアさん。改めまして、いつまでになるかわかりませんけど、どうぞよろしくお願いします」
「こちらこそですの」
そう言いながらナタリアさんは、私の手を取り、まさに聖女のような微笑みを浮かべます。
私とは似ても似つかぬ美少女の可憐な笑顔に胸を射抜かれてしまったのは内緒の話です。
こうしてこの日、私は彼女と義姉妹となり、ジュラー侯爵家の令嬢となったのでした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「本日からここはあなたの屋敷でもありますの。ご自由に散策なさるといいですの」
ナタリアさんにそう言われて煌びやかな屋敷の中を徘徊していた私は、廊下で一人の女性と出会しました。
艶やかな金髪の美女です。特徴的な虹色の瞳を見るに、おそらくナタリアさんのお母さん、つまり私にとって義母となる方でも間違いないでしょう。
高貴な雰囲気と佇まい、まさに貴族女性という感じです。
「あら、あなたが聖女様ですね。娘と夫から話は聞き及んでおります。タレンティド公爵令嬢にも屈しないで戦われたのだとか。そんな方がうちの養女となってくださるだなんて、夢のようですわ」
「初めまして。お世話になります」
「娘があなたのことを随分と気に入ってしまったようで。振り回すこともあるかも知れませんが、どうぞ仲良くしてあげてくださいませね」
「私の方こそ、迷惑だと思うのですけど」
「そんなことはございませんわ。聖女様がいらっしゃった時から空気が澄んで感じられるの。きっと聖女様の聖魔法のおかげですわ」
「そうなんですね。よくわかりませんけど」
侯爵夫人にも気に入られたようで、とりあえず一安心。
これからの侯爵邸生活がどうなるかはわかりませんが、まずまずのスタートでしょう。
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