18:光の騎士ニニ・リヒトについて
「何よ、朝はあんなにピンピンしてたくせに。まるで萎れた花みたいな顔してるじゃない」
「……」
「何か答えなさいよ、『裸の聖女』!」
ニニとの修行からの帰り道。
私はキィキィ喚く少女を前に、ただ突っ立っていました。……誰でしたっけこの人。頭が回らなくて思い出せないのですけど。
「えっと、あなたは……?」
「はぁ!? 何言ってんのこのポンコツ! 朝にきちんと名乗ってやったでしょうが! わたくしがこの国の第一王女のレーナ様よ!」
ああ、王女様でしたか。そういえばそうでしたね。
長い赤毛の王女様は、緑色の瞳で私をキッと睨んできます。私、今疲れてるんで今度にしてくれませんか?とはさすがに言えません。
「……さては『光の騎士』にたっぷりしごかれたわね? ふふ、異世界の平民である貴女があの女と向き合って生きて帰れるなんてすごいじゃないの。ほんの少し、褒めてやろうかしら?」
こういう傲慢系の女性、私、嫌いなんですよね。
なぜ誉めるのに『褒めてやろうかしら?』だなんて上から目線で言われなきゃならないんです? そんな方に誉められたって嬉しくないじゃないですか。照れ隠しということもあるかも知れませんが、この王女様は見下しオーラが半端ない。多分私より年少ですよね?
色々ツッコミたいことがありましたがそれをグッと我慢して、気になったワードについて質問してみました。
「『光の騎士』ってニニのことですか?」
「そうよ。スピダパム王国騎士団副団長にして、平民上がりのくせに騎士の中では最強とも言われている女。それがニニ・リヒトよ。もしかして貴女、知らないの?」
「……まあ、昨日までこの世界のことすら知らなかったですし。王女様はニニと会ったことがあるんですか?」
「あるに決まってるでしょ。お兄様がニニと剣の稽古をしているところをわたくし、見たことがあるの。思い出すだけでムカムカするわ、あの女……! 兄様を負かすなんて! それも魔法でよ!? 兄様が魔法を使えないのは周知の事実でしょうが! なのにあの女、光魔法でいい気になりやがって。許せない!」
勝手に一人でヒートアップしている王女様。兄様というのが誰だかはわかりませんが、可愛いお顔が台無しなくらい汚い言葉でニニを罵っています。そんなにニニに悪い思い出があるのでしょうか?
たった今ニニに絞られまくった私としては、正直同感なんですけどね。
「ニニってそんなに強い方だったんですね」
「当たり前よ。光魔法なんていう卑怯な力を使って周りの騎士を圧倒したの。そうでもなくちゃ平民のくせに騎士になるなんてあり得ないわ!」
……少し話を聞きますと、どうやらこの世界では貴族階級的なものがあり、平民はかなり軽視されている様子。基本的には騎士になるのは貴族の令息だけと決まっているそうなのですが、平民の、それも少女であったニニは実力で騎士団をのし上がったそうです。
改めて思いますが王族貴族やら騎士やら、聞きなれない言葉ばかり。まるでおとぎ話の世界みたいですね。
「ニニの腕が確かだったとすれば……私の聖女への道も近いってことですけど……厳しすぎます。今にも倒れそうです」
「ふふん。『裸の聖女』はせいぜいこの世界の厳しさを味わうがいいわ! ……というかなんでそんな服着てるわけ!? 男にでも遊ばれたいの!?」
「今更それですか……」
いくら王女様でもこの破廉恥な服について言われたくないです。失礼です。羞恥心で今にも死にそうなんですから……。
これ以上話すのが面倒臭くなり、私は何やら叫び続けている王女様を無視して自分の部屋へ向かってふらふらと歩き出しました。
――その後すぐに倒れてしまったらしいのですが、記憶にありません。