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177:婚約者からは逃げられない ――エムリオ視点――

「タレンティド公爵令嬢を……セルロッティさんを愛してあげてください」


「それは」


「私は私の道を歩みますから。――最後に言うのも卑怯ですが、エムリオ様、ちょっとだけ好きでした」


 その瞬間、ボクの恋心は砕け散った。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ボクはヒジリのことが本当に好きだった。

 貴族令嬢とは違う、素直で愛らしい笑顔を浮かべる彼女がたまらなく愛おしくて。いつの間にかボクの中でいちばんの存在になっていた。

 なのに、拒絶された。彼女もボクを受け入れてくれ、愛してくれていると思っていたけど、違ったんだ。


 ロッティとの婚約破棄を宣言したところまでは順調だった。

 だがそこで邪魔が入った。それはボクが呼び寄せ、腕に抱いていた少女……他ならぬ聖女サオトメ・ヒジリによるもので。

 彼女が婚約破棄に待ったをかけ、しかもボクが言った『真実の愛』を馬鹿にした上、ボクの腕から逃れて行った。それはボクと彼女の関係の終わりを表していた。



 ああ……どうしてこうなってしまったんだろう。

 全てを捨てても彼女に仕える気でいた。『ざまぁ』されたっていい、ただヒジリの傍に居られれば、それで良かったのに。


 別の男と連れ立って歩くヒジリの姿を見つめながら、ボクは思う。

 あれは確かビューマン家の令息だ。ボクといる時よりずっと親しげな表情を見せるヒジリに胸が痛み、ビューマン伯爵令息に嫉妬の念が燃え上がる。


 ボクのことを好きと言ったくせに、キミはその男に靡くのか。

 どうして。ボクはこんなに愛していた。今だってそうだ。何が足りなかったのか、わからない。ただただ胸にあるのは怒りと喪失感と憎悪だけ。


 だがその時、ロッティはきっとこんな気持ちだったのだろうと気づいてしまった。

 ヒジリにうつつを抜かし、蔑ろにされたことはとてつもなく辛かったんじゃないだろうか。それなのに彼女の気持ちを考えもせず、今もヒジリに想いを寄せている自分がなんだか急に恥ずかしくなった。


 ――ロッティにきちんと謝らないと。


 そして気づけばボクはロッティの手を引き、控え室に向かっていたのだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「ごめんよ。ボク、ロッティのことを放ったらかしにして……。キミのヒジリに対する所業を許したわけではない。でも、ボクにも大いに非があった」


 ロッティは未来の王太子妃にあるまじき行為をした。

 そのことはボク自身としても、王太子という立場からしても許さないし、許せない。でも一番悪いのはボクだ。ボクがヒジリに惹かれなければ、こんなおおごとにはならなかったはず。


 ロッティは大切だ。だが、愛しているかと言えばやはり違う。

 幼い頃からの仲。あまりにも親しい間柄過ぎて恋情を抱けないのかも知れない。それとも、何をさせてもボクより上で輝くロッティを心のどこかで妬んでいるのか。

 わからない。わからないけれど、


「これからはキミのことを今まで以上に大切にすると誓うよ」


 ロッティをギュッと抱きしめ、ボクは囁いた。

 するとロッティはその三倍くらいの力で抱き返してくる。正直言って息が苦しい。ロッティは土魔法の応用で常に身体強化をしているために怪力なのだ。同じ魔法をかけてもらっているボクでなければ肋骨がぽっきり折れていても不思議はないくらいの強さだったが、なんとか耐えた。


「いいですわよ別に。でも、もう二度と浮気はしないでくださいまし。ですが今度アタクシを怒らせたら、本気で『ざまぁ』してやりますから」


 顔を近づけられ、かと思えばチュッという音と共に唇と唇が触れ合う。

 それがキスだと気づいたのは数秒後。これがボクとロッティのファーストキスだった。


 何のロマンティックさもない。でも熱い気持ちだけははっきりと伝わってきて、ボクの顔が赤くなる。

 まったく彼女はなんてことをしてくれるんだ。小動物的で守ってあげたくなるヒジリとは対照的な強くて熱烈な触れ合いに、体温が上昇するのがわかった。


 だから今からボクが言うのは、多分照れ隠しでしかないんだろう。


「でもヒジリも可愛かったからなぁ。ボク、ヒジリに恋しちゃったんだよね」


「殺されたいんですの?」


「だからごめんって」


 ロッティの腕にさらに力が込められたのがわかって、慌てて否定する。

 しかしロッティは許してくれず、「罰ですわよ」と言いながらキスの雨を降らせ始めた。




 ボクは今この瞬間もヒジリを心から愛している。

 でもどうやら婚約者(ロッティ)からは逃げられないようだ。彼女の一途な愛に、ボクは身を委ねることにした――。

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