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169:「君との婚約を……」

 今から一体何が始まるのでしょう。

 私を連れ出し、ダンスでも踊るつもりでしょうか? でも他に誰も踊っていないのにそんなことはあり得るとは思えません。なら、どうして? 私は戸惑っていました。


「エムリオ様、あの……」


「ヒジリ。今からボクは重要な事案を話す。少しだけキミに付き合ってほしいんだ」


 私の問いかけにもエムリオ様は言葉を濁すばかりでした。

 そして――。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「私事ではあるが皆にも聞いてほしいのでここで話させてもらう。

 今年、聖女サオトメ・ヒジリ嬢が異世界より召喚され、この学園に入学したことによって様々な問題が起きた。上級生が皆集まっているこの場でそのカタをつけよう。

 ここ数ヶ月、サオトメ嬢に対する暴行や脅迫という事件が多発したのは皆が知っているところだろう。そしてその首謀者はロッティ――他ならないボクの婚約者だ」


 卒業パーティーが開かれているホールの中央にて。

 そこに私を連れてやって来たエムリオ様は、卒業生に送る言葉を学園長が話し終えた後、王立学園の生徒会長として卒業生たちへの挨拶を行うはずの場所で、そんなことを言い出したのです。


 さらには、


「ロッティ、キミに話がある。キミがサオトメ嬢に対して行った言動は、生徒会のメンバーでありながら貴族にあるまじき行為だよ。よって、公爵令嬢セルロッティ・タレンティド。キミとの婚約を、破棄する!」


 私の体をぎゅっと抱き込みながら、エムリオ様は声を振るわせ、叫びました。


 は? なんで今? というか、エムリオ様、今なんて言いました?

 理解が追いつかず、彼をじっと見上げることしかできない私。ざわつく周囲。そして人混みをかきわけ、金髪縦ロールをぶんぶんと振り乱しながら物凄い勢いで飛び出してくるタレンティド公爵令嬢。


「エムリオ、これは一体何事ですの!?」


「ロッティ、ボクはキミが大切だったよ。でもキミのことは許せない。ボクとキミはお別れだ」


 寂しげな顔で言うエムリオ様。

 えっ、ちょっと待ってください、どうしてこんな大勢の前で別れ話を始めたんですか? そういうの二人でやってくれませんか? というかこの構図じゃ私がエムリオ様をたぶらかして浮気させた上、別れ話をさせている泥棒猫みたいな立ち位置になっているんですが?


「婚約の破棄なんて、ご冗談でしょう。そうですわよね? この婚約は王命。そう簡単に破棄などしていいはずがございませんわ。なのに……! その女ですのね? その女がっ」


「彼女は悪くない。嫉妬に狂い、女神様に愛されし乙女である彼女を虐げたのはキミじゃないか。証拠は全て揃っているんだ」


 証拠……!?

 まさか私たちが必死で手に入れた証拠の数々をエムリオ様も持っていたということ? そしてやはり私たちと同じように、この場でタレンティド公爵令嬢の罪を公にしようとした?

 そう考えれば納得がいきます。いきますが、少し状況に追いつけないです。


 せいぜい私たちは、謝罪を求める程度のつもりでした。

 それで全てを水に流せるわけではありませんが、謝罪と少しの慰謝料、そして二度と私に危害を加えないという確約をさせ、許すはずだったのです。

 それがどうして婚約破棄なんて事態になるんです? もちろん醜聞を起こした令嬢を娶るのは困るだとか、そういう諸事情があるのかも知れませんよ。ですが、私を巻き込む必要ありませんよね!?


 しかし私の心の叫びなど知らないエムリオ様は、次々に証拠品を出し、タレンティド公爵令嬢を断罪していきました。

 噴水に落としたこと、教科書を破ったこと。それ以外にも暴言、暴行の数々。

 証拠が出される度、「失望した」とエムリオ様が口にする度、彼女の顔色が悪くなっていくのがわかりました。


「そんなっ。やめて……! やめてくださいませ! そんな、そんなことアタクシは……!」


 弱々しく上がるタレンティド公爵令嬢の悲痛な悲鳴。ですがそれに取り合うことなく、エムリオ様は改めて、宣言しました。


「もう一度言う。

 ロッティ……いいや、タレンティド嬢。ボク、エムリオ・スピダパムはキミとの婚約を破棄する」


 しん、と静まり返る会場。

 そしてタレンティド公爵令嬢に一斉に視線が集まり――彼女は「あぁ」と言って地面に崩れ落ちたのでした。

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