167:魔法大会、もちろん圧勝
――そしてついにやって来た運命の日。
「いよいよだね」
「覚悟はできていたはずなのに、なんか緊張してきました。汗がやばいんですが」
魔法大会の試合を控え、それ用の衣装に着替えた私とエマさんは、先に行われている試合を遠くから眺めながら自分たちの出番を今か今かと待っていました。
私、あまりこういう公の舞台で目立つのが得意ではないのですよね。ただ舞台に立って、打ち合わせ通り相手に魔法をぶち込めばいい。ただそれだけなのにとんでもなく緊張していて冷や汗がダラダラでした。我ながら情けない限りです。
「そっかー。でも確かにそうだね。この大会で勝てば賞金ジャラジャラだもん。みんなの本気度が違うよ」
「え、そんなの初耳ですけど。賞金?」
「そっか、言い忘れてたっけ。そうなんだよ。勝者二人に賞金が贈られるんだ。あたしはそれで色々投資して、うちの男爵家をもっと栄えさせるつもり」
そう言って笑うエマさんは男爵令嬢というより商人の娘にしか見えません。
それはさておき、賞金ですか……。大金を手にしても使い道が思い当たりません。
「へぇ……私は何に使うべきなんでしょう」
「まず自分のドレスを買った方がいいと思うよ、いつまでも借りてるわけにはいかないし」
「でも私、ニニから普段この格好でいろって言われてるんです」
「パーティードレスの二着や三着は用意しておかないと生きていけないよ? まああたしが口を出すようなことでもないけどさ。……あ、そろそろ始まるよ」
「みたいですね」
いよいよ私たちの第一試合です。
勝てるか不安ですが、エマさんのためにも全力を尽くすまでです。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
第一戦の相手は、ペリーヌ男爵令嬢ハンナ・ペリーヌともう一人は名前は聞いたことがあるものの話したことのない同じクラスの男子生徒でした。
ハンナさんには悪いですが私はもちろん手加減などしません。第一試合はスルッと勝ててしまいました。手こずることもなく、かかった時間はたったの五秒。
「やったね! さすがサオトメ嬢」
「ありがとうございます」
ハンナさんは気まずいような悔しいようななんとも言えない顔をして、男子生徒を引き連れながら立ち去っていきました。
そして第二戦。相手はシュガーゴット伯爵令嬢イルゼ・シュガーゴットと、その婚約者だという侯爵令息でした。
こちらは一戦目のように五秒で決着というわけにはいきませんでしたが、侯爵令息の火魔法を封じてからは簡単でした。イルゼさんは水魔法。せいぜい水爆弾を出すくらいでそこまで威力はありません。隙をついて一発こちらの聖魔法と風魔法を融合させたもの――それも威力抜群――を浴びせれば、勝敗は一瞬にしてつきました。
ちなみに魔法大会は全五試合あります。
第三試合、第四試合も無事に駆け抜けます。ちなみに強敵候補はタレンティド公爵令嬢セルロッティさん、セデルー公爵令嬢ミランダさんの二人だったのですが、二人は第四試合でぶつかりタレンティド公爵令嬢が勝利、そしてそのまま決勝へ進んできました。
「いよいよ最終戦ですの。エムリオ・スピダパム王太子殿下とタレンティド公爵令嬢ペア、そして聖女サオトメ・ヒジリ様とモンデラグ男爵令嬢の戦いになりますの。さて勝者は誰に――」
自分に戦いは無理だと自ら辞退し、実況役を務めているジュラー侯爵令嬢がそう口にした最中、すでに私たちの試合は幕を開け、凄まじい勢いで魔法が展開され始めました。
「聖女ごときがアタクシに勝てると思ったら大間違いですわぁぁぁぁ――!!」
絶叫し、魔法を込めた拳で思い切り地面を殴るタレンティド公爵令嬢。いつも高飛車でありながらお嬢様然としている彼女とは思えない行動。それに気を取られた直後、私の体は天井高くまで跳ねていました。
地面が盛り上がり、ジャンプ台のようになったのです。
これが本気の戦いであれば、この隙にエムリオ様に剣でザクっとやられるのがオチでしょう。しかしエムリオ様は動きません。なぜなら彼は、魔法が使えないから。
相方の力を借りずに一人だけで決勝戦までのし上がってきたタレンティド公爵令嬢恐るべしでした。
「あぁぁぁっ!」
そんなことを考えながらも私の体は現在も宙に浮いています。
いいえ、それは正しくありません。現在は宙に浮いた後、どんどん落ちて行っている最中です。
しかし――。
「ウィンド! サオトメ嬢に怪我はさせないから!」
咄嗟に魔法を詠唱し、私の体を風の力で押し上げながらゆっくりと着地させてくれるエマさん。
彼女が風魔法の使い手でなかったら背中からまともに地面に落下して骨折しているところでした。
「ありがとうございます」
「そんなこと言って得る場合じゃない。今は試合に集中して!」
「はい! 仕方ありません、できれば全力を出したくなかったのですけど!」
タレンティド公爵令嬢の魔法の威力は凄まじいです。
だからこそ私も、本気で望まねばなりませんでした。気絶するかも知れないくらいのレベルの魔法を放つのです。
「――ッッ!」
意思を固め、それを実行に移した時、私の視界は真っ白に染まりました。
何が起こったのか。私以外の誰もわからなかったでしょう。
数秒後、やっと白光が晴れた時、戦いの舞台には倒れ伏すタレンティド公爵令嬢の姿がありました。
「どうして、ですの」
「結界を張ったんです。特大の結界を。そしてあなたは結界に弾かれて倒れました。これで私の、私たちの勝ちです」
しばらくして、控えめな拍手が湧き上がり、どんどんそれが大きくなって魔法大会の会場に響き始めます。
その音をぼんやりと聞きながら、力を使い果たした私は膝から地面に崩れ落ちたのでした。
エムリオ様がその時、どんな目で私を見ているかに気づかぬままに。
面白い! 続きを読みたい! など思っていただけましたら、ブックマークや評価をしてくださると作者がとっても喜びます。
ご意見ご感想、お待ちしております!