166:「明日をお楽しみに」
少し辻褄が合わない部分が出てきたので、158部分以降を現在大幅改稿中です。そのため以前と少し話が噛み合わない部分があります。すみません。
その後、色々と、本当に色々とあったのですが……そこは割愛。
なんとかエマさんの魔法大会用とパーティー用のドレスを一着ずつセデルー公爵令嬢に借りることができたので、私たちは一緒に魔法大会に出ることができるようになりました。
あの日以来私はなるべくエマさんと過ごしています。いざという時には私の魔法が使えますし、怪我を負うような事態になっても治すことができるので色々安全なのです。私の情けない部分はエマさんが補ってくれますし、アルデートさんには悪いですが彼より幾分も頼りになるとさえ思えるくらいです。
――しかし、さすがに常に一緒というわけにはいきません。
卒業がいよいよ翌日に迫ったという時、私はアルデートさんとセデルー公爵令嬢と最後の少し打ち合わせをし、その帰り道、一人でとある人物に会いに行きました。
これが危険な行為だということはわかっています。でもやらずにはいられなかったのです。
やって来たのは、王立学園生徒会室の近くの廊下。
しばらく待っていたら彼女は現れました。そう、タレンティド公爵令嬢――セルロッティさんが。
「……いいですわ。例え悪になっても、何があってもアタクシは屈しません。セルロッティ・タレンティドは、必ずや」
何やら決心を固めているらしいところ邪魔して悪いのですが、私は彼女にそっと近寄ります。そして声をかけました。
「悪役令嬢さん、ここにいらっしゃったのですね。『例え悪になっても』だなんて立派なセリフじゃないですか」
振り返ったタレンティド公爵令嬢の驚き顔はなかなかの見ものでした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「アクヤクレイジョウ』?」
理解不能、というように首を傾げる彼女。
異世界人にはきっと理解できない言葉でしょう。でも構いません。私は明るい笑顔を浮かべ、話し続けました。
「はい、そうです。『アクヤクレイジョウ』。わかりますか?」
「わかりませんわ。というより、挨拶もなしに語りかけてくるなんて! アタクシは公爵家の娘ですわよ! あなた……異世界の平民ごときが断りもなしに話しかけるなんて不敬極まりないですわ。恥を知りなさい」
そう言いながらも私を警戒し、怯えているのがわかってしまいます。
しかしそれを今あえて指摘したりはしませんが。
「『アクヤクレイジョウ』のテンプレ、コンプリートですね。こんなTHE・悪役令嬢を見かけることは近年少なくなりましたけど」
「てんぷれ? こんぷりーと?」
「こちらの話です。失礼しました。
さて、卒業パーティーが迫る今日この頃、いかがお過ごしですか? 悪役令嬢らしく様々な悪に手を染め、なんなら私を階段から突き落としますか?」
「ぐっ……!」
「図星ですか。どこまでも悪役令嬢してますね」
私が彼女に会いに来た目的は二つ。
一つ、階段落としを事前に阻止しておくことです。こうして先んじて手を打っておけばもう心配はないでしょう。
私の言葉にタレンティド公爵令嬢は明らかに動揺した様子でした。
「だ、だから、その、『アクヤクレイジョウ』って何ですの!?」
「説明しますね。私の世界には小説というものがありまして、中でも簡単な読み本――ラノベというものがあります。そしてそのラノベには、ヒロインと悪役令嬢が登場します。悪役令嬢というのはあなたのようにいじめを行う地位と才能だけはある残念なご令嬢のことです。そしてヒロインとは……」
「もういいわ、くだらない話はやめなさい」
面倒臭いですが一応説明してあげたのにキレられました。本当にどれだけ沸点が低いんですか、彼女。
でも私は怒り返したりせず、大人しく口を噤みました。だって明日、たっぷり言い返せるのですから。
「あなたはアタクシに何の用があってここへ来ましたの」
「いえ、別に。『明日をお楽しみに』と、そう言いに来たんです」
公衆の面前で今までの罪を暴かれ、頭を下げて謝罪してくれればいい。
それだけが今の私の望みでした。やられっぱなしは嫌いですからね。
「何を、楽しみにですの? 何かプレゼントがあるなら教えていただきたいですわ」
「それは明日まで言えません。サプライズですから。……ただ一つ言えるのはあなたに勝ち目などないってことですね」
悪役の罪は正しく暴かれ、正義が勝つ。まるでつまらないお芝居みたいな展開が、明日待っています。
鬱展開の後はカタルシスが必要でしょう? 明日こそ今までやられた分を全てやり返す、その時なのです。そう思うとニヤニヤと締まらない笑顔になりました。
私を力づくで問い詰めようとするタレンティド公爵令嬢から逃れ、自分の寮へと全速力で駆け戻ります。
息切れし、ベッドに倒れ込みましたが、とてもいい気分でした。
ああ、本当に明日の卒業パーティーが楽しみです。
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