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165:面倒臭い貴族たちと、本物の聖女様 ――エマ視点――

 ああ、貴族ってほんと面倒臭い。


 キラキラしたドレスを着て、舞踏会に出てダンスして。

 そんな生活を夢見てたんだけど、その実態はドロドロしたものみたい。


 父さんの商売が成功して男爵家の娘になり、それから王立学園に入学した。

 そこまでは良かった。だけどそこであたしは、貴族社会の厳しい現実をまざまざと見せつけられていた。


 成金男爵家の娘であるあたしへの風当たりは強いし。

 ただでさえあたしの立ち位置が難しいっていうのに、三年生になって転入してきた聖女様……サオトメ嬢が問題を起こしてさらに孤立させるし。

 どうして金に関係ないことでそんなに対立するの? ああ、面倒臭い。あたしはただ得になる側についておきたいだけ。将来ウチを継ぐかも知れない身としては交流は大事だけど、できれば厄介事になんて巻き込まれたくない。


 でももうそれも限界みたい。

 卒業式ギリギリまでは息を潜めてたんだけど、卒業パーティーの前に開かれるらしい魔法大会にペアで出なくちゃいけなくて。あたしとペアを組もうとする令嬢なんていないから、必然的にサオトメ嬢に頼まざるを得ない。

 サオトメ嬢には一度決別を告げたし、それ以来無視してきた。だから罰が悪いし罪悪感もある。でも嫌なのは正直言ってそこじゃない。

 サオトメ嬢に関わったことであたしに突っかかってくるだろう周囲だった。そして案の定、問題はすぐに起きた。


「あなた、聖女様とペアを組むんですって?」


 鼻にかかる声であたしを問い詰めるのは、子爵令嬢ダーシー・ピンケル。

 ピンケル嬢はクラスメイトにして寮仲間だけど、あたしの最も苦手とする相手。すぐに喧嘩を売ってくる。そんなに平民上がりのあたしのことが嫌いなのかな。


「……それがどうしたの。別に誰と組んでもあたしの自由でしょ。それともあたしに魔法大会に出るなって言うわけ?」


「確かにどなたと組んでもそれはあなたの自由でしょう。私が確認したいことは一つ。つまりそれは聖女様側につくという意思表明で間違いないかということです」


 また派閥? そんなこと言ってどうするの。今度はあたしをいじめる気? 勝手にすれば?

 そんな言葉が喉元まで出掛かって、やめた。あたしはモンデラグ男爵家の娘。あたしの発言が父さんの迷惑になったらいけない。


 でも浮かんでくるのは苛立ち混じりの言葉ばかり。だからあたしは口を噤むしかなかった。


「――ダンマリですか。わかりました、いいでしょう。一つご忠告申し上げておきますが、きっと後悔することになりますよ」


「ご忠告どうもありがとう、ピンケル嬢」


 早くこんな学園から逃げ出してしまいたい。

 そう思いながらあたしは、ピンケル嬢の後ろ姿を見送った。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 そしてその翌日から、あたしへの脅しや暴行が始まった。


 昼休み、誰もいない廊下に呼び出されて名前も知らない生徒に殴られたり。

 朝起きたら魔法大会用と卒業パーティー用のドレス二着が無惨に切り裂かれていたり、教室のあたしの椅子だけ水でビチャビチャにされていたりした。

 くだらなさ過ぎて笑えてくる。こんなことをやるのが貴族? どこか高貴なわけ? あたしにはわからない。でもあと十日もない。耐えてみせるよこれくらい。


 実家に手紙を送ったけど、ドレスが届くのはかなり時間がかかる。

 誰かに借りるあてもないし、卒業パーティーに出られないかも知れない。それとも切り裂かれたドレスで登場した方がいいのかな? その方が人目に触れるし、このくだらないいじめが公にされる。そうしたら慰謝料がっぽりいただこう。人目があれば証明するのは簡単だもんね。

 ……そんな風に強がっていないとめげてしまいそうというのが本音だったけど、あたしは自分でそれに気づかないふりをすることにした。


 だから少し嬉しかった。

 魔法大会に出られないかもと言った時、「ついて来てください」と言って血相を変えたサオトメ嬢が強引にあたしをセデルー公爵令嬢の元に連れて行ってくれたこと。

 そして戸惑うあたしに、


「全部、大丈夫です。私たちがきっとなんとかしますから」


 そう、彼女には全く似合わない力強い笑顔お見せてくれた時。


 いつもは怖がってブルブル震えて泣き喚いて……そんななよなよした情けない女の子のくせにさ。

 その時だけはサオトメ嬢が女神様みたいに見えた。背後から神々しい光が溢れている気がして、彼女こそ救世の聖女様なんだってそう確信できた。


 もしもこの学園を無事に卒業できたら友達になりたいな、なんて。

 そんな風に思ったけれど、きっと彼女を無視し続けていたあたしにはそんなこと許されないだろうから、陰ながら彼女を応援しようと決めた瞬間だった。

 もちろんサオトメ嬢自身はそんなあたしの内心はまるで気づかなかっただろうけど。


「ありがとう、サオトメ嬢」


 貴族たちはくだらないし信じられない。でも、サオトメ嬢だけは信じられるかも知れない。

 彼女とぎゅっと手を握りしめあって、「絶対に魔法大会に出て優勝しようね」と誓った。

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