163:卒業へ向けての準備①
……思い返すと何のためにこの学園に通ったのか、ここ数ヶ月の意味がわかりません
勉強は確かにできました。文字も覚えましたし魔法の腕も多少は成長しましたし交友関係も少ないながらにできましたよ?
でも、それ以外全部タレンティド公爵令嬢とその周辺の令嬢たちに振り回されていた、というかいじめられただけの気がするんですが。学園生活は楽しかった思い出より色々苦労した思い出の方が多かったように思います。
それなら王城でレーナ様と一緒に過ごしていた方が良かったのにな、なんて今更言ってもどうしようもないことを考えながら、私は卒業のための準備をしていました。
卒業までにやらなければならないことは、卒業試験、そして卒業パーティーに必須とされるドレスの用意。
卒業試験は今までの総復習のような内容で、それに落ちると留年になります。ここしばらくゴタゴタしていたせいで勉強に集中できていなかったので合格できるか不安ですが……留年するわけにはいきません。それまでに猛勉強すればきっと大丈夫でしょう。
ドレスの用意とありますが、私は所持するドレスが一着もないのでセデルー公爵令嬢にお願いして古着を取り寄せてもらうことになりました。異世界人に比べて体格の小さい私には子供用のものがちょうどいいのです。
それともう一つ、忘れてはならないのは卒業パーティーでタレンティド公爵令嬢にされていたことの全てを公にするための計画の最終確認。
計画を確実に実行に移すためにも何事もなくその日を迎えられればいいのですが、それまでに絶対何か起こるような気がしてなりませんでした。それはどうやら私だけではないようで、上級生下等クラスにはなんとも言えない張り付いた空気が流れています。誰一人として口を利かない中、卒業までの日々は淡々と進んでいきました。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「余興?」
「そう。卒業式の余興として魔法大会があるんだ。でもそれはペアで出なくちゃいけなくて。……サオトメ嬢、あたしと組んでくれないかな?」
そんなある日のこと、放課後に「話がある」と言ってひっそりと連れ出された先、私はモンデラグ男爵令嬢ことエマさんからそんな話を受けていました。
エマさんと言葉を交わしたのは随分久しぶりで少し嬉しくなりましたが、ダーシーさんの時のこともあり警戒せざるを得ません。
そんなことを言って他の上級貴族の令嬢たちに頼まれて私を死なせるつもりなんじゃないか?と疑わずにいられないことが悲しくて仕方がありませんでした。
「エマさんなら、組める人もいるでしょう? わざわざ私なんかに頼らなくたって」
「あたし、成金男爵家の娘だからさ。誰も不必要に干渉してこようとしないんだよね。しかも今は公爵令嬢派と聖女派で二分されてるでしょ? ……ごめんね、散々ひどいことして、自分に都合のいい時だけ力を貸して、だなんて。あたしも本当はサオトメ嬢が悪くないことくらいわかってるんだ。仕方ないんだって言い訳して、見て見ぬふりしてただけ。許してほしい、なんて言えないけど」
エマさんは情けなさそうにしながら頭を下げて、懇願してきました。
「お願い」
私は一言を聞いて、首を横に振れなくなってしまいます。
ああ、ずるい。これも含めて計算づくめで、きっと後で私をひどい目に遭わせようとしているに違いないと思うのに、こんな言い方をされたら断れないじゃないですか。
だって私は、本当は彼女と仲直りしたいと思っていたのですから。
「……わかりました。エマさん、今回は特別ですよ。卒業の前にギスギスしたままなのもアレだと思って……それに私も組む相手がいないと思うのでちょうどいいってだけで。決して許したとかそういうわけでは、ないですからね」
「ありがとう、サオトメ嬢!」
あれだけひどいことをされ続けていたのに。無視され続けていたのに。
どうして私はこんなにも容易く、彼女を受け入れてしまうのでしょう。それが自分でもわかりませんでした。
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