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161:おかしいですわ ――セルロッティ視点――

 アタクシの計算がどんどん狂っていく。

 ああ、どうして聖女を川に突き落としたりなんてしましたの?


 そんなことをしたら今まで目を瞑っていた教師陣が口を出してしまう。タレンティド公爵家の娘という地位を持ってしても言い訳できない事態になってしまうかも知れないのに。

 アタクシが罵詈雑言を浴びせ、また、聖女の不貞の証拠を突きつけて退学処分にさせることができれば良かった。しかし聖女はあれだけふしだらなくせに一向に不貞を行う様子はなく、アタクシの言葉にも静かに耐え続けるだけ。

 それに一番気に入らないのはアルデートの存在ですわ。どうして彼女に見方をしますの? 所詮腐れ縁でそこまで良好な関係ではないことは百も承知の上ですけれどわざわざ聖女を庇うことはないじゃありませんの。


 ――ああ、腹が立ちますわ。


 エムリオは近頃、アタクシに氷のような視線ばかり向けてくるようになりましたわ。

 アタクシはこんなにもあなたのことを愛しているのに。いくらそう態度や言葉で示そうとも、エムリオが真に想うのは聖女だけで、その事実がアタクシをさらに追い詰める。

 聖女のどこが良いのでしょう。

 たわわな胸? 淑女にあるまじきマナー無視の所作? それとも初対面の人間、しかも身分が上の者を名で呼ぶという不敬なところが愛らしくでも見えるのかしら?


 理解しようとするだけ無駄ですわね。

 卒業式は間近。このまま聖女を見逃してしまえば、アタクシが聖女に手出しできる機会は無くなってしまう。

 しかしどこぞの令嬢が川に突き落とした事件のせいでアタクシは動きづらくなっていました。聖女を追い詰められてもアタクシが糾弾されるようなことになっては元も子もありませんわ。

 聖女を正しく排除し、一刻も早くアタクシの名誉を取り戻さなければ。


 しかし最近おかしいことがありますの。

 アタクシが焦れば焦るほど、聖女は余裕な態度を見せるようになったのですわ。

 彼女への風当たりは日々強くなっているはずなのに。やはりアルデートが何か力を貸しているに違いありません。彼、アタクシのことが怖くないんですの?


 でもあの男は脅したところでどうにもならない相手だということはわかっていました。

 ですからアタクシは行動に出ましたの。


 取り巻きに言ってアルデートを引き離している間、アタクシは聖女の協力者を問い詰めることにしたのですわ。


 アルデートはビューマン伯爵家の嫡子。

 いくらお人好しといえ自らの立場を弁えていないような馬鹿な男でないことくらい、アタクシとて知っておりますわ。必ず裏に別なる協力者がいる。それを炙り出し、脅しつけて優位に立つ……それがアタクシの考えでしたの。


 同じクラスの下級令嬢たちにハブられ、一人きりでぼんやりテラスに佇む聖女。

 アタクシは彼女に声をかけました。


「お話がありますのよ、聖女様。少しお付き合いいただきたいのですけれど」


「あら、セルロッティさん……じゃなかった、タレンティド公爵令嬢。ごめんなさい、私忙しいのでいちいちくだらない嫌がらせに付き合っていられないんです。もうすぐ卒業式で色々準備がありますし」


 なんて生意気ですのかしら。平民のくせに、許せませんわ。


「そうおっしゃらず、直ちに来なさい。さもなくば――」


 どうなっても知りませんわよ、と言おうとしたその時でした。

 向かい合う聖女とアタクシの間、そこにとある人物が立ち塞がったのは。


「ロッティ、何をしてるんだい」


 彼の顔を見た途端アタクシの背筋は一瞬にして冷たくなりましたわ。

 そんな、まさか。彼は現在溜まりに溜まった生徒会の仕事を片付けているはずで、ここにいるわけが。


「ロッティが急いでどこかへ行くから気になってついてきたんだ。そしたらこの有様だ。ロッティ、キミは……」


「アタクシは彼女と少しお話しをしようとしただけですわ!」


 しかしアタクシが弁明しようとしても、彼――エムリオはアタクシを手で制しました。

 そうすればアタクシは黙る以外の選択肢を持ちません。アタクシはエムリオの婚約者である前に、臣下の一人なのですから。


「エムリオ様、私急用を思い出しましたので失礼します! どうぞ後はお二人でご勝手に!」


 しかも聖女はアタクシが何も言えないのをいいことに逃走。そして残されたのは、アタクシが聖女を脅しつけようとしたところをエムリオに見られてしまったという事実のみ。


「ロッティ。キミはやり過ぎだ。失望したよ」


「エムリオ――」


「ボクはこの国の王子として、聖女であるヒジリを守ろう。彼女を虐げる全てからね。だからロッティ」


 エムリオは悲しそうな笑顔を見せながら一言。


「キミの暴挙をこれ以上見過ごすことはできない」


「待ってくださいまし、アタクシは」


「キミのことをずっと大切だと思っていたよ」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「ああ、ああ、あぁぁぁああぁぁっ――!!」


 今夜もアタクシは悪夢を見て絶叫と共に目を覚まし、枕に顔を埋めて泣きじゃくります。

 思い出すのはエムリオの拒絶の言葉。アタクシより聖女を優先し、守ると誓った言葉。

 どうして? あなたの婚約者はアタクシなのに。アタクシの今までは全てエムリオを愛し、この身を捧げるためだけにあったというのに。


 タレンティド公爵家の娘ともあろう者がなんとみっともない。

 それがわかっていても涙が止まりません。ああ、どうして。嫌、嫌ですわ。どうして。


 ――全てあの聖女が悪い。

 ――違う、エムリオのお心を掴めなかったアタクシが悪いのですわ。

 ――違う違う、あの聖女が。聖女が来なければアタクシは今もエムリオと。


 ぐるぐると頭の中を駆け巡る憎悪の嵐。

 こんな醜い心根だからこそエムリオに嫌われる。それがわかっていながら目を背けようとするアタクシはどこまでも愚かでした。

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