160:私は私のために ――ミランダ視点――
私は月明かりが差し込む寮の部屋で一人、思案に耽っていました。
隣室からは悪夢にうなされているような声が聞こえてきます。きっとタレンティド公爵令嬢でしょう。タレンティド公爵令嬢は王太子殿下のお心がいただけないと嘆いていらっしゃるのかも知れません。
彼女と私は学年が違いますが、上級貴族に限り学年は別でも寮は同じ、という場合があるのです。実はナタリア嬢もこの寮で寝食を共にしています。
……と、そんなことはどうでもいいのです。
問題は聖女サオトメ様について。
私と彼女は今、協力関係にあります。本当はサオトメ様に力添えをするのは得策でないことはわかっておりますが、それでもこの道を選ばなければならない理由が私にはあったのです。
――愛する人と添い遂げるために。
ポルルク伯爵家令息、バリ様。
それが私の婚約者であり、想い人の名前。
彼と私の仲は非常に良好でした。
ただ、経済的な問題で婚約解消寸前になっているだけで。
彼と別れるくらいなら死んでしまった方がいい。
そう思っていた私にとって、サオトメ様に差し出された条件は一筋の希望であり、手を取らないわけにはいかなかったのです。
それにサオトメ様はマナーはなっていらっしゃいませんが、話してみれば魅力のある方でした。
少し頼りなくはあります。ですがお優しくて物腰柔らかく、この方ならばきっと世界を救ってくださる、そう思わせるものがありました。
ですから私は己の選択を後悔していません。
私は私のために、この道を選ぶのです。
タレンティド公爵家に恨まれる可能性など正直言ってどうでもいいことです。タレンティド公爵家とて内戦は望まぬでしょう。……もしも内戦など愚かなことを始めればスピダパム王家やジュラー侯爵家と手を組んで潰すまでのことですしね。
本当に聖女様との企みはうまくいくでしょうか。
学園長であるジュラー侯爵に全ての証拠を渡しました。そして後日、タレンティド公爵令嬢には然るべき罰を受けていただくつもりです。
しかしビューマン令息が言っていたように、それまでにサオトメ様の身に何かあったとしたら。
それが心配でなりません。
どうやら私はいつの間にかサオトメ様に取引相手として以上に情が湧いてしまったらしいですね。
もしも全てが終わったらぜひ友人になりたいものです。
ああ、全てが無事に終わってくれますように。そしてバリ様と私が幸せに結ばれますように。
私はただ静かに、女神様に祈りを捧げるのでした。
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