16:初めての魔法
「聖魔法というものは先ほども申しましたように治癒と浄化に特化した魔法であり、その存在は非常に希少なものでございます。が、魔法を行使する時の基本はどの属性においても同じ。なのでまずはわたしが魔法を発動させるところを見ていただきましょう」
「はい」
どうやら聖女修行の最初は、魔法に触れることから始めるようです。
この剣と魔法――多分そうですよね?――な異世界に召喚されてしまってからというもの、当たり前のように魔法だの何だの言っていますが見るのはこれが初めて。ドキドキ……というより少し怖いです。よくゲームやら何やらで簡単そうに魔法を扱いますが、あれって絶対危ないじゃないですか。
でもきっと練習しているであろうニニなら大丈夫ですよね、多分。仮にも騎士ですし。
そう言って自分を落ち着かせ、私はニニの魔法を見せてもらうことになりました。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「『ライト・ソード』!!!」
ニニが天に剣を突きつけます。
そういえば、初めて異世界の空を見ましたが地球と同じで綺麗な青です。この世界の大気の状態とかはどうなっているのでしょう。息ができるので地球と似ているのかも知れません。
そんなどうでもいいことは置いておいて、ニニの握る剣からポワッと眩い光が溢れ出しました。それはたちまち空へ閃光を放ち、スゥッと昇っていって虚空へ呑まれていきました。
……その一部始終を目にした私は、ただ呆然とするしかありません。
「これが魔法でございます。わたしはこうして剣に魔法を込めることを得意としておりますが、魔法の発動方法はその人の素質や魔法属性によっても異なり、先ほども申しましたように聖女様は全身からそのお力を放つことになるのでございます」
「す、すごいですね」
「わたしなどまだまだでございます。わたしに魔法の才があると発覚してからまだたったの二年しか過ぎておりませんので、到底熟練された魔法などとは呼べるはずがございませんよ」
そうなんですか……? 今の光線は少しの狂いもなく綺麗でしたし、まるで魔法のよう……じゃなく、間違いなく美しい魔法だったと思うんですが。初めての魔法に私、正直感動してしまっています。
だって一度は誰もが憧れる魔法が今目の前で見られたのです! 本物の魔法が! 私の中にわずかに残っていた厨二病精神が沸き立つのを感じるのですがどうしたらいいのでしょうかこの興奮は!
「私を弟子入りさせてください!」
「はい、聖女様。国王陛下にあなた様を立派な聖女にせよと仰せ使っております故」
ニニがそう言いながら深々と頭を垂れました。
……今更ですが王命なんですね、これ。というか王命という言葉をリアルで聞くとは思いませんでしたよ。
ともかく立派な聖女目指して頑張らなくてはいけません。
「ではまず、初歩段階から始めましょう。魔法の発動に必要なものは念じることでございます。簡単な魔法であれば詠唱せずとも念じるだけで行使することができるのです。例えば……」
それからニニは治癒魔法も見せてくれました。
わざわざ爪で自分の手の甲を引っ掻き、血――異世界人の血も真っ赤なのですね――を流すと、そこにもう片方の手を当てたのです。そしてその手を離した時にはいつの間にか傷が癒えていました。
「体内の魔力を感じ、それを練って形として放出するのでございます。聖女様も一度お試しください」
また同じようにしてわざわざ血を出したニニが、私へそっと手を差し伸べて来ます。
…………。躊躇いなく自傷行為に及べるニニの精神力にもびっくりですし、その上先ほどの治癒魔法が凄すぎて声も出ないんですが。あれを私にもやれということでしょうか?
できるとは思えませんが、これをやらないと何も始まらないようです。私は恐る恐るニニの熊のような大きな手に自分の手を重ねると、ぎゅっと目を閉じて念じました。
治れ治れ治れ治れ治れ!!!
――しかし当然のことながらそう簡単に成功するはずもなく、王妃様の時と同様、ニニの傷は全く治っていませんでした。体内の魔力を感じろとニニに言われましたがそもそも魔力が何なのかもよくわかりません。つまり、またもや失敗でした。
「どうやら聖女様はまず、魔力というものについてのお勉強が必要なようでございますね。……なかなか遠い道のりになりそうでございます」
ニニが少し困ったような、それでいて覚悟を決めた声で呟き、私を見下ろしています。私はその巨体に改めて圧倒され、思わず身震いしてしまいました。
なんだか『お勉強』という言葉が怖いんですが……痛いことだけはしませんよね……? 不安になって来ました。
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