158:学園長室へ
私はじっと目の前にある扉を睨みつけていました。
ここが学園長室。この場所に足を踏み入れたことは過去二、三度ありましたが、今までのどの時よりも緊張しています。背中に汗がタラタラと流れているくらいです。
しかし意外なことに、セデルー公爵令嬢やアルデートさんはそこまでガチガチになっていない様子で、いつまでも一向に動こうとしない……というか扉を開ける勇気がなかっただけなのですが、ともかく立ち止まっている私を急かし、扉を開けさせました。
「ごきげんよう、学園長様。少しお話ししたいことがございます。お時間はよろしいでしょうか」
「セデルー公爵令嬢、ビューマン伯爵令息、それに聖女様。また何か問題でもございましたか?」
「……問題というか、このところ学園で起きている問題を収束させるための話ですよ」
私がまごまごしている間に、セデルー公爵令嬢とアルデートさんがサクサクと事情説明していきます。
さすが貴族。社交とかに慣れているおかげなのか話すのが上手いです。こうしてモジモジしているだけの自分が恥ずかしくなります。
「規則に違反する、過度な暴行傷害事件も多数発生しているのです」
「……ほぅ。しかしその話は前にも聖女様より伺いました。しかし証拠がなくば私は残念ながらその生徒を罰することはできかねますが」
「証拠ならあります。そのために私はサオトメ様らに協力したのですもの。……サオトメ様、例のものを学園長様にお見せになって」
「は、はい。わかりました」
私は小さく頷き、事前にセデルー公爵令嬢から渡されていた証拠品の数々を提出しました。
たとえばセルロッティさん……タレンティド公爵令嬢が私に暴行を加えていたのを目撃したという証言。それ以外にも私の破損した教科書の切れ端が混じってあったタレンティド公爵令嬢の寮部屋の屑籠など。
他にも彼女の取り巻き令嬢たちの行動の証言と証拠品は数え切れないほどにあります。一度は私の気がおかしくなる寸前にまで至った原因である殺害予告状を筆頭に、私が川に突き落とされた時にちょうど例の令嬢三人の姿が見えなかったという状況証拠も。ここまでくると言い訳ができないほど真っ黒なことは誰にでもわかるレベルでした。そしてもちろん
「これでまだ私の自作自演とは言えないでしょう、ジュラー侯爵様。娘さんにも少しご協力いただいてこれだけ証拠を集めるに至りました。
お願いです、彼女に正しき裁きを。それがきっと女神様の望んでいることです」
と言っても私は女神なんてあまり信じていませんけれどね。
女神という言葉にコロッといったのかそれともあまりの証拠の多さに否定できなくなったのか、ジュラー侯爵様は「わかりました」というと、深くため息を漏らします。
そして一言。
「できるだけ穏便に済ませられるよう努力しましょう。生徒たちにはせめてきちんと卒業させてから、正しく償わせたい。それで構いませんか?」
「在学中でなければ意味がないではありませんか。残りの日々をサオトメ様は肩身の狭い思いで過ごさなければならないのですよ。卒業後でなんて無意味でしょう」
「……セデルー公爵令嬢、気持ちはわかる。だが」
セデルー公爵令嬢の怒りはもっともなのですが、確かにアルデートさんの言い分が正しいのです。
貴族という以上は色々と駆け引きがあるでしょう。バランスを今より悪くしてまで卒業前に騒動を起こすのが好ましいのか否かというと、否でしょう。
でも、
「さすがにあそこまでやられたのですから、彼女にも痛い思いをしてもらわないと納得いかないです。だから私はセデルー公爵令嬢の意見に賛成します。卒業前は荒れるでしょうから卒業パーティーにて行いたいと考えます。アルデートさん、どう思いますか?」
「……被害者は君だ。君の好きなようにするといい。そういうことです、ジュラー侯爵閣下」
ジュラー侯爵様には悪いと思いつつも、私はタレンティド公爵令嬢の罪を公にすることを選びました。
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