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156:ナタリアさんとのお話②

 それから羞恥でたっぷり五分ほど身悶えしていた気がします。

 が、アルデートさんの声で私は我に返りました。


「ジュラー侯爵令嬢、彼女は俺が教育します。ですから本題を聞かせてくださいませんか」


 そうです。私はナタリアさん……ジュラー侯爵令嬢と話をするためにここに来たのです。うっかりそれを忘れるところでした。


「……ビューマン令息、生き急ぐのは」


「わかっています。それでも今回ばかりは時間がない。ぜひジュラー侯爵令嬢にご協力いただきたい。俺のできることなら何でもしましょう」


「しっかりしていらっしゃいますのね。時に噂はあてにならないものですの。ビューマン伯爵令息、あなたがいれば聖女様も安泰ですの。

 大事なことをお話しする前に聖女様、(わたくし)から一つ質問がありますの。それにお答えいただけますの?」


「……質問? 何でしょう」


(わたくし)が問いたいことは簡単なことですの。聖女サオトメ・ヒジリ様。あなたはこの世界をお救いになるつもりがございまして?」


 静かな、問いかけでした。

 どうして今そんなことを訊かれるか、わかりません。でも重要なことに違いないと肌で感じられました。


「確かにこの一連の騒動は悪質だと思われますの。それに一人で立ち向かっていかれるのは辛く厳しいことですの。それでもこれほどの障害を前に膝を屈し、泣き崩れるあなたに聖女の資格がございますの? そんな軟弱な心で『厄災』に立ち向かえますの?

 あなたには確かに力がありますの。それは以前の野外授業の際で明らかですの。ならなぜ聖女様を虐げんとする彼ら彼女らにその力を振るいませんの? 無抵抗、それすなわち甘く見られるということですの。本来あなたは一人きりでこの苦境を乗り越えられはず。どうしてそうしませんの?」


 ジュラー侯爵令嬢の柔らかな声で紡がれる怒涛の質問。

 私はそれを受け、深く考え込んでしまいました。


 ……確かに私は泣いて逃げてばかりいたような気がします。

 本気になれば結界的なものを張って身を守ることもできたのかも知れません。害をなそうとする令嬢たちに対抗できたのかも知れません。川に落とされずに済んだでしょう。


 でも。


「……何でも魔法で解決するのは良くないと思うんです」


「どうしてですの?」


「私が暮らしていた世界は元々魔法なんてありませんでした。でもそれに反していじめも揶揄いも自殺もたくさんあって。それを見たこともあります。だからこそ、自分の力で、あるいは誰かに頼って乗り越えなきゃいけないような気がして。魔法を使ったらずるいじゃないですか。何でもチートに頼るのは、良くないと思います。

 なんて言いながら泣いてばっかりじゃ格好はつかないですけどね」


 苦笑混じりに出した私の答え。

 それにジュラー侯爵令嬢は何を思ったのかうっすらと微笑み、そして。


「わかりましたの。あなたの……聖女様の真っ直ぐな思い、伝わりましたの。

 (わたくし)、人を見る目には自信がございますの。そして(わたくし)の直感が告げています。あなたは真に聖女であると。

 (わたくし)はあなたを認めました。ですから、力をお貸しするといたしましょう」


「本当ですか!?」


「もちろん。(わたくし)、嘘は吐かない主義ですもの。

 (わたくし)が聖女様のお力になれることは一つ。では――」


 そう言いながら彼女が取り出したのは一枚の羊毛紙のようなもの。


「こちらをご覧になるとよろしいですの」


 それは、この学園の生徒たちの関係が細かく記された相関図。

 差し出されたそれを見て首を傾げる私に、ジュラー侯爵令嬢は言いました。


「そちらの相関図はおまけですの。本当に重要なのはこちらの面。(わたくし)が今まで聞き及んだあらゆる噂を元に作成いたしましたの。一体どなたが聖女様を虐げることで利を得て、利を得ないのか。またどなたがどのようなことに手を貸したのか、などがわかりますの。もちろん(わたくし)の存じている範囲ではありますがそこにある事象を裏付ける証拠を探すことができれば、彼女らを退学処分に追い込むことは容易いですの」


「なんでここまで……」


 公爵令嬢派と聖女派に分けられそれぞれの名前が書かれた相関図の裏には、何の刻、何処で何家の令嬢または令息がこのような行為に及んだ、ということが記されている。

 まるで全て目にしたかのような具体的な内容。信じられない。私とアルデートさん、ミランダさんの三人がかりでも証拠を集めるのにかなり苦労しているというのに、それをたった一人で。


「噂はあてにならない時もありますが、火のないところに煙は立たぬとも申しますの。そこにあるのは複数の証言が合致し、その上状況を考えて確かなことだろうと推測できたものだけですので信頼性は高いと思ってくださって構いませんの」


 にっこりと微笑むジュラー侯爵令嬢は、そっと私の手を握って言葉を続けます。


「……健闘をお祈りしておりますの、聖女様」


「期待に応えられるよう、頑張ります」


 その微笑みを見て私は彼女こそ真の聖女に相応しいのではないかと思えたのですが、それは内緒の話です。

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