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151/239

151:照準は定まった

 冷たい水の感触、そしてその中で聞こえた温かい声だけが耳に残っています。

 夢も見ずに眠り込んでいた私がふと目を覚ますと、真っ先に視界に映ったのは見慣れない天井。それから……。


「絶世の美男子、ですか」


「俺はそこまで顔がいい方ではないぞ」


「そんなことはないと思います……って、アルデートさん!? なんでこんな顔近いんですか!」


「起きて早々やかましいな。だが良かった。どうやら衰弱している様子はないらしい。川を流れてくるから心配したんだぞ」


 そう言って安堵の笑みを見せるのは、銀髪に菫色の瞳の超絶イケメンことアルデートさん。

 それにしてもどうしてこんなに顔が近いのでしょう。三十センチ、いいえ二十センチも距離がないように思えます。それを意識した途端ポッと頬が赤くなり、誤魔化すようにすぐさま顔を逸らしました。


「ここ、どこです?」


「俺たちが今夜泊まるスピダパム王立学園所有の別荘の保健室だ」


「保健室……。そっか、私、川に突き落とされたんでしたっけ。どうして生きているんでしょう」


「君が川の上流から流されてきた時は驚いたぞ。やはり突き落とされたんだな。生きてるのは君の聖魔法のおかげと、あとは俺が見つけるのがたまたま早かったというだけだ」


「もしかして私を引き上げてくれたのって……」


「面目ない、失礼だとはわかっていたが非常事態だったのでな」


「うわわわ……!」


 つまりアルデートさんと密着……もしかするとそれ以上のことをされたかも知れないわけで。

 ただでさえ赤かった顔が茹蛸並みに高揚するのが自分でわかりました。先に顔を背けておいて良かったです。

 しかしそんな私の内心などお構いなしに、アルデートさんは私に詰め寄ると、怒涛の質問攻めをしてきました。


「誰に突き落とされたんだ? どうして川の方になど行ったんだ? それとも先に気絶させられて運ばれた? その場にじっとしておいてくれって言ったじゃないか。なぜ危ないことばかりするんだ。君は死にたいのか? 死にたくないなら自分の行動の意味を考えたらどうなんだ」


「えっと、その……エムリオ様が」


「王太子殿下がまた何か?」


「はい。エムリオ様が私を、守るって、そう言って。なんか戦場みたいな空気感になっちゃって。だから私、慌てて逃げ出してアルデートさんを探してたんですけど、途中でダーシーさんに声をかけられたんです」


「ダーシー? もしかしてピンケル子爵令嬢か?」


「そうです、彼女です。私の寮仲間でかつては親しくしていて。最近は全く話していなかったんですけど、人目のないところだから話してくれたんじゃないかと思って、ついうっかり油断してしまったんです。それでアルデートさんがいると聞いて川べりにまで行ったら、そこに三人の令嬢がいました。名前はわかりません」


「そうか……。おそらくはピンケル子爵家に所縁のある上級貴族の仕業だろう。アッディムト侯爵家とフォン伯爵家、ユーラスア伯爵家の令嬢はタレンティド公爵令嬢の取り巻きだ。おそらくタレンティド公爵令嬢の指示に違いないな」


 アルデートさんが挙げたのは、どれも私が聞いたことのない貴族家の名前でした。

 おそらくその家は公爵令嬢派なのでしょう。私の存在が邪魔で排除しにかかったと、そういうことなのかも知れません。面識があるかないかはわかりませんがほぼ知らない人に殺されそうになるとは、つくづく物騒な世の中です。


「君を川に落としたのは許せない。だが、これで大体照準は定まった。取り巻き令嬢三人とピンケル子爵令嬢を徹底的に調べ上げよう」


「そうですね」


 うっかり死にかけた今回でしたが、思いがけぬビッグイベントで証拠集めが捗りそうで何よりです。

 けれど二度とこんな死ぬような思いはしたくないなぁと少しぼんやりする頭で考えながら、私は川で冷え切った体をぶるりと震わせるのでした。

 面白い! 続きを読みたい! など思っていただけましたら、ブックマークや評価をしてくださると作者がとっても喜びます。

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