150:容赦はしない ――アルデート視点――
「アルデート。あなた最近、アバズレ聖女と仲良くなさっているようですわね?」
俺は今、タレンティド公爵令嬢に詰め寄られていた。
昼食時に声をかけられて連れて来られたこの場所――小さな川のほとりで向かい合うようにして立つ俺とタレンティド公爵令嬢。彼女は俺に扇子を向け、厳しい顔でこちらを睨みつけている。
ああ、まったくこいつは昔から面倒な女だ。
だが今回は特に面倒だった。できれば彼女は敵に回したくない相手なのだが、仕方ない。
聖女――サオトメ・ヒジリのためにできることをやると決めたからな。
「……最近俺があの聖女と連んでいる理由、か。それを訊いてどうなるんだ?」
「わかっているでしょう。アタクシの言いたいことは一つだけ、アタクシの邪魔になることをするなということですわ。
あなたごとき、アタクシの一声で追放できるんですのよ。その上で答えなさい。
アルデート、あなたはあの忌々しい聖女に手を貸していますの? その上、アタクシを陥れようと計画なさっているのではなくて?」
「…………」
俺は黙り込み、タレンティド公爵令嬢をじっと見つめ返した。
これだけできっと俺の強い意志は伝わったはずだ。彼女は小さく「愚かですわね」と呟くと、橙色の瞳に激情の炎をゆらめかせながら言った。
「皆が皆、聖女の味方になっていく。つい最近までアタクシに媚びへつらっていた男どもも、女も、あなたも、エムリオも! どうして? あの女は何もしていないのに。アタクシは今までずっと、未来の王太子妃として相応しくあるために努力を重ねてきた。アタクシこそが国母に相応しい女。この世の何者よりも恵まれ、愛されるべきですのよ!
ああ、腹が立つ。腹が立つ腹が立つ腹が立つ!」
怒りの声を上げ、縦ロールの金髪を振り乱しながら真紅のドレスを引きずってその場から走り去っていく彼女。
俺はただそれを見送ることしかできなかったが、一つだけ、気づいたことがある。
いつも毅然とし、美しさを保とうとしていた彼女が初めて口にした心からの悲鳴。それだけタレンティド公爵令嬢が追い詰められているのだということだ。
「……腐れ縁として、考えてやらないとな」
聖女だけでなく、彼女を救う方法を。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
しかしそれから数分後、状況は一変することになる。
これからのことを思案しながら川べりにぼぅっと佇んでいた俺の元に、川の上流から何かが流れ着いてきたのだ。
それは――。
「……まさか。君、大丈夫かっ!?」
白いビキニに引き締まった四肢、そして黒髪黒瞳。
見間違えるはずがない。それは、聖女サオトメ・ヒジリだった。
先ほどの考えを撤回しよう。
少しタレンティド公爵令嬢はやり過ぎた。こうなったらもう、容赦はしない。
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