148:エムリオ様からのお誘いと渦巻く嫉妬
「ヒジリ、最近会えてなかったから本当に心配していたんだ。しかもこんな風に糾弾されて……。
キミたち、貴族として、そしてスピダパム王国の民として、聖女を虐げることに何も思わないのか。聖女はこの世界を救ってくださるであろう方だ。もちろんそれぞれ私情はあるだろうと思うよ。でも聖女だって人なんだ。先ほど彼女の凄さを見たばかりだろう? それでもまだ聖女が認められないのかい」
あれほどまでに騒がしかった昼食は、水を打ったように静かでした。
これならまだ多少嫌な空気でもエムリオ様の来る前の方が良かった。私は今まで以上に注目を集め、悪目立ちしてしまっていました。
まあこの場で嫌がらせの証拠を取るという意味ではこの展開もアリといえばアリなのですが、さすがにやり過ぎのような気がします。エムリオ様は後先考えないで行動して私に迷惑をかけているようにしか見えません。私が好きならそこのところをもう少し考えてほしいのですけど。
などとはもちろん口に出せず、私はただただ黙っていました。第一彼と会わせる顔などないのです。少し見つめただけで胸が痛み、初恋の後遺症が疼きます。
けれどそんな私の内心など察さぬままに近づいてくるエムリオ様。そして周囲からヒシヒシと感じる憎悪と嫉妬の視線。
できるだけ迅速にアルデートさんの元に逃げないと。
そう思って視線を巡らすものの私の周囲はもはや人だかりができており、逃げられる状況ではありませんでした。そしてそれはつまりアルデートさんも来られないということ……はっきり言って最悪の最悪の最悪です。
「え、エムリオ様? 私実は友人と約束してまして。だから、その」
「ヒジリ。ここから離れてボクと一緒に食べよう」
「だからですね、私は」
「ロッティのことなら大丈夫。彼女はビューマン伯爵令息と何やら話しがあると言ってボクから離れて行ったから」
「アルデートさん……!」
まさか彼女に捕まっていたとは。それでは絶対の絶対に助けに来てはくれません。
そしてエムリオ様はぱっと見ではわかりませんがどうやら興奮しているらしく私の話を全く聞いてくれず、手をとってどこかに連れて行こうとします。私はそれ以上の言い訳も思いつかず抵抗する術も持っていなかったため、そのまま連れて行かれる結果となってしまいました。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「君が学園の門を壊して外に飛び出したと聞いた時はどうなることかと思った。それから何度も君と接触しようと思ったんだが、うまくいかなくて。少々強引な方法になってしまったね。ごめん」
「はぁ」
「まずは謝らせてほしい。すまなかった、ボクの力が及ばないせいでキミにたくさん辛い思いをさせた。
だからこれからは何があってもボクがキミのことを守る。たとえロッティと対立することになったとしても。ボクはキミの騎士になりたい」
三流映画のワンシーンのような格好つけたセリフ。
それを聞き流しながら私が心配しているのは、この先のことでした。
公爵令嬢派を余計に刺激してしまうようなことになった現状をどうしたらいいのか。
ただの嫌がらせで済むかわかりません。明確な殺意となって私に襲いかかる可能性だってある。そう考え、背筋が冷えました。
「だから頼む、キミを守らせてくれ。役立たず王子ではなくキミに寄り添う騎士として、キミの傍にいたいんだ」
「ごめんなさい。騎士なら間に合っています。ただ、今はちょっと不在なだけで」
「なんだって?」
「ですから騎士役なら間に合ってます。きっとエムリオ様の方がずっとすごい実力を持っているんだと思います。でも無理です。エムリオ様は王子、私は聖女。不純な関係であったらいけないでしょう?」
私はそう言いながら昼食そっちのけで踵を返します。
引き止めようとするエムリオ様。しかしその静止の声を聞くことなく、セルロッティさんに絡まれているであろうアルデートさんを探し出すべく駆け出しました。
……その行動の迂闊さに気づかぬままに。
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