146:サクッと魔獣討伐
上級生の上等、中等、下等クラスの三クラスの教師、そして担任と合流しました。
総勢百人ほどでしょうか。もちろんその中には寮仲間のエマさんやダーシーさんにイルゼさんにハンナさん、そして私をいじめてきた大勢の中級貴族令嬢たちがいるだけでなく、遠くにセルロッティさんとエムリオ様の姿も見えます。
セルロッティさんは私に気づいたらしく鋭い視線を送って来ましたが、この場ではそれ以上の行動を起こすはずもなく私が見つめ返すとすぐに目線を逸らされてしまいます。
どうせ後で彼女の方から何らかの接触があるでしょうから今は気にしません。とりあえず魔法講義に集中しましょう。
それから私たちはメンディ辺境伯領の西端、国境上にある山岳地帯へ向かって出発。すぐに緑の木々の生い茂った道に出て、深い山の中にやって来ました。
いかにも野獣が出そうな物騒な場所です。などと考えているそばから、割と近くで獣の咆哮が聞こえました。
「――ガァッ!!」
そして現れたのは熊型の大きな魔獣。
目は赤く、体毛は真っ黒で不気味です。しかも一匹ではなく五匹。アルデートさんの言っていた通りこの辺りはかなりの危険地帯のようです。
「魔法、放てッ!」
上等クラスの担任教師が叫び、前衛にいた上等クラス生たちが火魔法やら水魔法やらをバシバシ撃っていきます。
その光景はまるで二次元の漫画やアニメのようでした。魔法と魔法が混じり合い、煌めきながら五匹の魔獣へ直撃。かと思えば柔らかな土の地面がもっこり盛り上がり、魔獣たちを地面の中へと引き摺り込んでいきます。
倒すまでにかかった時間は二十秒にも満たなかったように思います。あまりの凄まじさに私は目を瞠るしかありませんでした。
「さすがタレンティド公爵令嬢」
「素晴らしいですわ!」「魔法すら美しいだなんて……惚れ惚れします」
セルロッティさんを取り囲んでキャッキャとはしゃぐ女子生徒たち。
どうやら最後の土魔法を発動させたのはセルロッティさんだったようです。彼女は「魔法などなくても素手で倒せたのですけれどね?」と涼しげな顔。聖女なんかいなくても彼女一人だけで全魔獣討伐できるんじゃないかと思える実力をひしひしと感じさせられました。
「私も頑張らなきゃですね」
「君が本気を出したらタレンティド公爵令嬢の比じゃないと思うぞ」
「それは買い被り過ぎですよ、アルデートさん」
……と、話している間にまたもや魔獣出現。
しかも今度は頭数がまるで違います。二十? 三十? いいえ、もっとです。獅子頭で蛇の尾をしたキマイラ的な魔獣。名前は知りません。でも向こうが敵意満々なのだけはわかりました。
「今度は私が!」
「いいや僕が」「わたしよ」
そんなことを言っている中等クラス生。
しかしもうその時すでに私は魔法を発動させていました。そして――。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「やり過ぎだろう、君は」
「すみません……」
早乙女聖、やらかしてしまいました。
まさか私の放った聖魔法一撃だけで周囲の魔物が全滅するなどと思っていませんで……。本当、申し訳ない。
五十以上いたキマイラ魔獣を倒したはいいものの、その後どれだけ森の中を歩き回っても一向に魔獣が現れる気配がない。
不審に思った先生方が木々の中に分け入って探してみると……魔獣の死骸の山。ええ、全部私が殺ったようです。私は無自覚系主人公ではないので「また何かやっちゃいました?」的なムーブはしません。ちゃんと反省していますよ。でももう取り返しがつきません。何しろ全滅したのですから。
野外魔法講義はこれにて終了。ただでさえ嫌われていた私ですが、これでさらに反感を買ってしまった気がします。
強過ぎるのも困り物だということを学んだ私なのでした。
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