144:お出かけイベントは波乱の予感
「五日後、西方のメンディ辺境伯領で魔法の野外授業を行います。
領地から各々の護衛、または侍女を呼び寄せるなどし、それぞれの馬車でメンディ領へと向かってくださいませ。上等クラス、中等クラス、下等クラスの合同授業となります。
おわかりだとは思いますが、身分の上の者に対しての敬いを忘れぬように。最悪、周囲に迷惑を及ぼすことになりかねませんので。
……何かご質問があれば伺います。遠慮なくおっしゃってください」
学園での野外授業。
何かビッグイベントが始まる予感に、生徒たちがざわざわし出します。
もちろん私もそのうちの一人でした。下等クラスだけではなく、三年生全員での野外授業。ということはセルロッティさんも一緒ということです。絶対何かが起こるはずです。
私は少し気になったことがあったので手を挙げました。
「あの。別の学年は一緒ではないのですか。二年生とか……」
「今回の野外授業は卒業を控える上級生のみとなっております」
困りました。つまり、ミランダさんは同行できないということですよね……。
でも最悪ではないのは、アルデートさんと一緒に行けることでしょうか。できるだけ使いたくはありませんが、いざとなれば――もちろんできるだけ使いたくはない手ですが――エムリオ様を頼ることもできますし。
私の他に質問をする者はいず、そのまま野外授業の話は終わりました。
色々準備に忙しいであろう他の人たちが慌てて教室から立ち去っていく中、やることがない私はこれからについてぼんやりと考えるのでした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
それにしてもメンディ辺境伯なんて今まで一度も聞いたことがない名前です。果たして公爵派と聖女派、どちらなのでしょう。
それはわからないままに日々が過ぎ、いよいよ出発当日。
きっとエムリオ様なら私に馬車を貸してくれると言い出すでしょうがそうなると面倒なことになるので彼と会うのを徹底的に避け、代わりにアルデートさんにお願いして一緒にビューマン伯爵家の馬車で辺境伯領に連れて行ってもらいます。侍女や護衛も連れているせいで馬車は一台だけではなく、かなりの台数ありますが、私とアルデートさんは同じ一番豪華な馬車に乗り、西へ三日の旅路を共にすることになりました。
「……近いですね」
「婚約者でもないのにこんな距離なのは申し訳ないが、我慢してくれ。ほら、俺は一応君の騎士役なんだし」
「アルデートさんは戦えないんですよね?」
「…………」
「まあいいです。エムリオ様の時は馬車で一緒どころか宿も一緒だったわけですし、今更ですね」
なんだか感覚が麻痺してきたようで、異性と二人きりのシチュエーションにもそこまで戸惑わなくなってしまっています。
いちいちドギマギするよりはいいのか、まだ乙女なのに男慣れしていっていることを嘆くべきなのか、よくわかりません。ともかく、
「こんな平和なことを言っていられるのも今のうちですね……」
「そうだな」
辺境伯領に着いてしまえば、そこからは戦いと言っても過言ではないのです。
すでに出発前の数日間で貴族の派閥争いなどがさらに過激になっていましたし、それが暴発するのは必至。楽しいはずのお出かけイベントは波乱の予感しかありません。
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