141:テンプレな悪役令嬢には屈しない
私たちが行動を開始した数日後、セルロッティさんの方も動きがあったようです。
浮気者を取り締まろうとするそれは、間違いなく私を追い出すためのものだったでしょう。
周囲の目も随分と厳しくなり、私が少し他の男子生徒に近づこうとしただけ――それがたまたますれ違ったとしてもです――汚らわしいものを見る目で見られるようになりました。
ビッチ聖女とつるんで退学処分されるのが嫌だからに違いありません。もちろん私はビッチでも何でもないですが、そこの誤解を解こうとするだけ無駄です。何せ噂を広めているのはこの学園一の有名人であるセルロッティさんですから。
それと、彼女からの直接的な接触も増えたように思います。
罵られたり、蔑まれたり、取り巻きを含む集団の時もあればセルロッティさん一人のことも。
しかし今までと違って日に日に余裕を失っていくのは私の方ではなく彼女の方でした。
苛立たしげに唇を噛み、些細なことで文句をつけてくるものの、致命的な暴力は振るえないのか、ただただ悔しげにするだけ。
その代わりとばかりに私の寮仲間の誰かに命令したのでしょうか、寮の中でも嫌がらせが始まりました。「さすがにこれはひどいよ」と言って私を味方するエマさん、見てみぬふりをするダーシーさんとイルゼさん、自室に閉じこもって出てこようとしないハンナさんのうち、誰が犯人だったかはわかりません。もしかすると全員が犯人の可能性だってあります。
けれど私はじっと耐えました。きっとこの間にミランダさんは頑張ってくれているはずです。寮の中までは無理でも、アルデートさんは私を守ってくれています。独りではない。それだけで、なんとか泣かずにいられたのです。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「本当に嫌ですわ、穢らわしい。どうしてあなたのような方がこの清く正しくあるべき学園に在籍しておりますの?」
「仲間外れ? そんなの、無礼を重ねていれば当然のことですわ」
「あら聖女様、最近はビューマン伯爵令息がお気に入りですの? まあ別にアタクシには関係ないことですけれど」
「あなた! 今日という今日は許しませんわ! アタクシの……アタクシの婚約者と親しげに! どういうおつもり? そんなにアタクシに恨まれたいのかしら。命が惜しくはありませんの!?」
きつい顔、人を殺しそうな目、苛立たしげなトゲトゲした声音。
どこまでもテンプレ悪役令嬢なセルロッティさんに、私は苦笑を隠すので精一杯でした。彼女の言い方がキツくなればなるほど追い詰められているのがわかって、それを少し小気味いいと思ってしまう自分がいます。
「命は惜しいです。惜しいですけど、あなたに私は殺せないでしょう」
「どうしてそんなことが言い切れますの。本気になったらアタクシは」
「未来の王妃様であり、美しく、自分でも才媛であると自覚しているあなたが? 自分の未来を棒に振ってまで、私を害したいならどうぞ」
「このっ……!」
セルロッティさんが手にした扇子が勢いよく私の頬へ突きつけられ、つぅっと顔面を生暖かい血が伝いました。
ああ、痛い。でも痛みより真っ先に考えたのは、近くからこっそり見ているであろうアルデートさんにまた心配をかけてしまうということでした。
「薄気味悪い。本当に気持ちが悪いですわ。どうしてそんな顔をしていられますの? 男の前では媚を売るくせに。泣いて縋るくせに。あなたのどこが聖女なのか、理解できませんわ」
私は彼女の悪口に答えることなく、何も言わずにその場を立ち去りました。
ここで言い返すのは得策ではありません。傷を負わされたという証拠が残ればそれでいいからです。
とりあえずこれをミランダさんに見せに行きましょう。それと、彼女の友人数人にも――。
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