14:まずは修行から
――何事もまずは修行から。
ということで私は、王城の一角にある広い庭へやって来ました。
あちらこちらで芳しい薔薇が咲き乱れ、眩しいくらいです。綺麗な写真集やテレビなどでしか見たことのないような光景に私は思わず目を見張ります。すごい……!
と、異世界の薔薇園に感動していた時のことでした。
突然、背後から声をかけられたのです。
「――聖女様、よろしいでございますか?」
「うわっ」
あまりにも気配ゼロだったので、思わず飛び上がってしまいました。
私が慌てて振り返ると、そこに立っていたのは…………巨人。
いいえ、正しく言えば、見上げるほどに背の高い女性でした。
身長は軽く三メートル近く。私の身長の約二倍です。
身長に見合うだけ横幅も大きく、私基準で言えばガチムチ系女子と言っていいでしょう。その体型のインパクトはさることながら、彼女は全身に騎士の鎧を纏った非常に目立つ格好をしています。鎧なんて初めて目にしましたけど、まるでアニメの世界が実写化されたような感じです。腰には騎士剣と思わしきものが吊り下げられていました。
白金の髪に灰色の瞳をしており、西洋美人的な風貌です。でも私としてはガチムチ系は苦手なので落第点ですけど……。
と、こんなことを考えている場合じゃありませんでした!
「ええと……あなた、どなたです?」
「初めてお目にかかります。わたしはスピダパム王国騎士団所属の女騎士、ニニ・リヒトと申す者でございます。聖女様とお会いできたことを心から光栄に思う次第でございます」
非常に畏まった喋り方と合わせて恭しいお辞儀をする巨人……じゃなかった、ニニさん。
この世界って女の騎士様もいるんですね。
腰を折り曲げてもなお私より身長が高いとか、どれだけなんですか。とツッコミたい気持ちをグッと堪えて。
「ニニさん、初めまして。私は、えっと、異世界から来ました聖女の早乙女聖です」
この世界からしたら、私の世界は異世界ということでいいんですよね?
たどたどしく挨拶をすると、ニニさんは私に優しく微笑みかけてくれました。
「わたしのことはニニと、そう呼び捨てにしてくださいませ。ただの平民上がりの騎士でしかないわたしと聖女様では格が違いすぎるというものでございますから」
明らかに歳上――と言っても二十歳くらいに見えますが――な上に巨人なお姉さんを呼び捨てにするのは、かなり抵抗があるんですが。
でも私は一応聖女なのです。ファンタジー世界でいう聖女は教皇と同じくらいに尊い存在とされるもの。だから騎士であるニニさんより確実に身分が高いはずでした。
そこまで理解し、でもやはり歳上の方は敬うという日本の常識が抜けない私は、やや抵抗がありつつも彼女を呼び捨てにしました。
「に、ニニ。あなたがもしかして、私の教師ということなのですか?」
「左様でございます。わたしが聖女様に訓練を行わせていただくことになってございます」
えぇぇ、こんな巨人さんと!?という言葉を寸手で呑み込み、私はニニさん改めニニの全身を再び見回しました。
なんだか、少し怖そうなんですが。剣で切られたりしませんよね? ね?
「ご心配なさらずとも大丈夫でございます。わたしが主にお教えするのは魔法の使い方について。騎士剣で打ち合うようなことは、恐らくないと思われます」
私の心を見透かしたようにそう言い、笑顔を見せるニニ。
そこまで言われれば、大丈夫なような気もして来ました。というよりこの世界で生きていくにはやるしかないのです。勇気を出せ、聖!
「じゃ、じゃあ、修行よろしくお願いします!」
「こちらこそよろしくお願いいたします、聖女様」
そんなわけで私の聖女修行が幕を開けたのでした。
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