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132:泣き虫聖女と伯爵令息①

「いらないです。私、戻りますから」


 アルデートさんの手を振り払い、顔を背けます。


「門を壊したことはお詫びしますし、もしも許してもらえないならこの学園から出て行きますけど……ぁっ」


 長い時間寝転んでいたせいなのか、すぐにその場を立ち去ろうとしていた私は足がふらついて倒れそうになりました。

 しかし私が無様に転ぶことはありませんでした。なぜなら、咄嗟にアルデートさんが私の腕を掴み、引っ張り上げてくれましたから。


「危ないだろう」


「…………」


「本来婚約者でもない女性の体に触れるのは許されないことだが、今回ばかりは仕方ないと思ってくれ」


 困った顔をして私の手を離すアルデートさん。

 私は何を言ったらいいのかわからず、口をモゴモゴさせるだけしかできません。転んでも治せるから大丈夫です、と言って突き放すのも、何事もなかったかのように学園の方に戻るののも、あまりに非常識に思えて。

 でもお礼を言うのはなんとなく嫌だったのです。


「まあいい。それで学園の門のことだが、確かにあれは大きな損害ではあるがおそらく学園長あたりがなんとかするだろうと思う。俺も生徒会の一因だから、そこら辺はうまく調整するつもりだ。……それより、ハンカチあるからこれで涙拭け。俺が聖女様泣かせただなんて噂が広まったら困るからな」


 そう言いながらアルデートさんは、可愛らしい刺繍の入ったハンカチを渡してきます。

 私はしばらく躊躇いましたが結局それを受け取り、言われた通りに顔を拭いました。それでも湖面に映して見てみれば目は真っ赤ですし口の周りは涎の跡が残り、とても見られたものではなかったのですけど。


「……ありがとうございました。このハンカチ、洗ってお返ししたらいいですか」


「持っていてくれて構わない。ハンカチなんて有り余ってるしな」


 それは何かのマウントでしょうか。

 男の人の持っているハンカチといえば、女性からもらった物……そう考えてしまう私がおかしいとは思うのですが、でもスタイルがよく控えめに言って美青年なアルデートさんならそういうこともあり得るかも知れない、なんて考えながら、しかしその内心は一切顔に出さずに私は頷き、


「じゃあこれで。さようなら」


 そう言って再び立ち、逃げるようにしてさっさと戻ろうとしました。

 しかし案の定そううまくいくはずもなくて。


「待ってくれ」


 そういえば今も腕を掴まれたままであることにようやく気がつきました。

 これでは逃げられません。離れようとしてジタバタと必死にもがくも、アルデートさんと私の体格差はかなり大きく、到底叶うはずがありませんでした。

 悔しさにまた泣きそうになりました。


「なんですか、一体。離してくださいよ」


「そのまま戻ってもろくなことにはならないだろう」


「だから何だっていうんです? 所詮あなたも少し優しい顔をすればすぐに靡くと思っているなら大間違いです。私、そんなに単純な女じゃないつもりです。第一、私の悪い噂は知っているでしょうに。私は王子様をたぶらかす悪女なんですよ」


 アルデートさんはしばらくなんとも言えない表情で私を見つめた後、堪え切れないような様子で噴き出しました。


「――ふっ」


 何が面白いのでしょうか? 苛立ち気味に睨み返すと、彼は散々笑った後、こんなことを言ったのです。


「君なんかが悪女になれるわけないだろう」


 なぜでしょう。

 悪女になれるわけがない。褒められているようにも貶されているようにも思える、その言葉を聞いて――ものすごく救われたような気分になってしまったのは、なぜなのでしょう。


 気づいたら我慢していたはずの涙が次から次へと溢れ出していて。

 泣いたらいけないとわかっていたはずなのにそれが止まりませんでした。

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