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131:差し伸べられた手

 それから橋の上にどれほどの時間寝転がっていたのか、私にはわかりません。

 数時間のようにも感じられましたし、たった数分のことにも思えました。頭がぼんやりとしていて、視界が霞んで呼吸が乱れ、自分が生きているのかどうかもわからなくなってきた頃、突然降って来た声に私の意識は現実に引き戻されました。


「……そんなところで何をしているんだ」


 私はそれに答えません。答える気力がありません。

 誰かが私を見下ろしているような気がします。声もどこかで聞き覚えがありましたが、果たして誰だったでしょう。


「目を開けたまま気を失っているのか? 面倒臭いが起こしてやらないと……。それにしてもおかしい。どうしてこんなところで」


 思い出せそうで、思い出せない。

 そんな私に近づいてきた誰かは私の前で屈み込み、耳元でそっと囁きました。


「そんなところで寝てたらダメだろう。起きてくれ。もっとも俺に抱き上げられたいなら話は別だが」


 抱き上げられたいなら、という言葉だけがスッと頭の中に入って来て、私は戸惑います。

 一体何を言っているんでしょう、この人は。私をお姫様抱っこでもするつもりなのでしょうか? そこまで考えて恥ずかしくなり、慌ててガバッと起き上がりました。


「起きてますっ。……ただ、ちょっと考え事を」


「考え事なら空き教室ででもしてくれないか。わざわざ門を破壊してまで学園を脱走して橋の上で寝転んでいたら迷惑極まりないだろう。もしもこれが俺じゃなくタレンティド公爵令嬢が来てたら湖に投げ入れられるところだぞ」


「ごめんなさ…………ぁ」


 この時になって、私はようやく気づきました。

 今自分が話している人物が誰かということに。


「アルデート、さん?」


「他に誰だと思ったんだ」


 呆れ返ったように笑うのは銀髪に菫色の瞳の美青年。

 やはり乙女ゲームや少女漫画の男役にありそうな美形の彼は、アルデート・ビューマン伯爵令息で間違いありません。アルデートさんにまでこんな醜態を見られたとか……死にたい。


「私のことは、放っておいてください」


「学園から逃亡を図った者は、ある程度の罰則が与えられることになっている。生徒会の一員として見逃すわけにはいかない」


 そうか。確か前に会って話した時、アルデートさんが生徒会員ってことを教えられたような気がします。

 それで私を探しに来たのなら納得です。確かにセルロッティさんじゃなかっただけマシですが、それにしたって私は気分いいはずがありませんでした。


「帰ってください」


「なんで門を破壊して飛び出したりしたんだ。……って訊くのはまぁ、一応確認のためだ。原因はあの悪意ある噂だろう?」


 私は押し黙り、アルデートさんから顔を逸らしました。

 これ以上見つめられているとおかしくなりそうな気がしたのです。


「言っただろう。嫌がらせやら何やらは貴族の嗜みと言ってもいい。俺はそういうやり口は嫌いだがな」


 別に私、貴族じゃありませんし。この学園だって来たくて来たわけじゃないんですよ。

 そう言おうとしてやめました。言ったって何にもなりませんから。


「助けてほしいって顔をされても困るんだが」


「そんな顔、してません」


 どうせ助けてくれないのなんてわかってるんです。

 身分を理由にして虐げ、様々な悪行を見て見ぬ振りをする。それが貴族。ならば貴族なんて滅んでしまえばいいのに。


「でも相談になら乗ってもいいぞ。今の君はとても放っておけないしな」


 そんな言葉と共に、差し伸べられた手。

 今までの私ならきっと握ってしまっていたでしょう。私は優しいのに弱いんです。だから優しくされると思わず何でも頷いてしまいます。

 しかし、いいえ、だからこそ――。


「いらないです」


 私は彼の手を突き放しました。

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