13:やっぱり魔法は無理です!
私が悔しさに唇を噛み締めていると、王妃様が私の方を向いてにっこりと微笑みました。
「ありがとう。あなたに無駄な苦労をかけてしまいましたわね。所詮、この傷は治りっこないに違いありませんわ」
そしてそっと、手を振り払われます。
悴む手から徐々に感覚が戻るのを感じながら、私は、王妃様を救えなかったのだと理解しました。
やはり、ごくごく普通の高校生でしかない私にはあんな傷を治すことなど無理だったのです。
そりゃあそうでしょう。今まで魔法は存在すら信じていませんでしたしね。……まあ実際に『召喚魔法』というものでこの世界に連れて来られたので信じざるを得ないだけですが。
本当に私は聖女なのでしょうか?
昨日はあんな風に格好をつけて決心を固めはしましたが、実のところ、私は私が聖女であるかどうか、全くわかっていません。
ただ異世界人たちがそう言っているだけで、私には何の力もないのではないでしょうか? そんな考えがふと浮かんでしまい、たまらなく不安になりました。
だって聖女なのに怪我も治せないのです。
お話の中の聖女はどんな傷でも癒し、人々に希望を与える存在である場合がほとんどですよね。私だってかつては憧れてすらいました。
でも私がそんなおとぎ話のような存在になれるとは思えませんでした。聖女になれるだなんて馬鹿みたいなことを考えて、私はあまりにも調子に乗りすぎていたのです。
「……すみません。私は、聖女にはふさわしくなかったのかも、知れません」
「そんなことはないですわ。昨日あなたの中に聖魔法への属性があることは確認されたのでしょう?」
王妃様があくまでも柔らかく微笑んでくれます。
でもまだ王妃様の腕には黒い痕が残ったままでした。
私は申し訳なさでいっぱいになりながら頷きます。
「聖属性というのが、何かはよくわかりませんけど。でも私、魔法は無理なんです……! 浄化の力だなんて、ありません」
「話には聞いていましたが、本当に魔法が何も使えないのですか? それほどに魔力量があって?」
そもそも、紛れもない地球人である私にも魔力があるんですね。
しかし例え魔力が高くとも、使えないものは使えないのです。
項垂れる私に国王様が言いました。
「――すまなかった。魔法が使えないと聞いていたが、そなたが急にやる気になったので、もしや覚醒したのではと甘いことを考えてしまったのだ。きちんと教師はつけてある。安心しろ」
あっ。そういえば、昨日そんなことを言われたような気が……?
家に帰れないという悲しみのあまり忘れてしまっていましたが、ということは私ももしかして教えてもらえれば魔法が使えるようになるということ?
というか国王様、なんでそれを知っていて私に王妃様の治療をやらせようとするんですか。覚醒って、ビッグイベントもないのにするわけないじゃないですか!
「どーせこんなエセ聖女に治せないに決まってるでしょ。お父様もお母様も騙されてるのよ」
王女様がそんなことを言いましたが、隣の弟さんにぺちっと叩かれています。
まあ、どちらかと言えば私は王女様の意見に賛同なんですけどね。私なんかが、少し練習したくらいで浄化の力とやらが使えるものでしょうか?
――そんな私の疑問をよそに、歓迎会はお開きになって早速私は魔法の使い方を教えてもらうことになりました。なんとも慌ただしい……と思いながらも私は状況に流される他ありません。
王妃様には「もし魔法が使えるようになったら、またお願いできるかしら?」と笑顔で言われ、とりあえず了承しておきました。使えるようになったら、ですが。
ファーストミッションに失敗してしまった分、私の肩にはものすごい重圧がかかっています。もしも訓練しても役立たずのままだったらガクブルな未来が待っている気が。
なので先ほどの失態を取り返すべく、せいぜい努力するしかないのです。
「では、行ってきます」
王族の皆さんに見守られながら、私はその教師とやらが待つ場所へと向かいます。
はぁ…………。異世界に来てからというもの、次から次へ何なんですか、まったく。本当に神様を恨みたい気分です。
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