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129:まるで悪夢のような

「聖女のサオトメ様、悪女なんですってよ」

「わたくしも婚約者が聖女様の近くに寄らないか監視しておかないと」

「とんだアバズレ女ですねぇ」


 ヒソヒソ、ヒソヒソ。

 授業中でも昼食中でも廊下を歩いていても、聞こえてくる声が私を責め立て続けます。


「もう純潔を失っていらっしゃるんじゃないかしら」

「まさか」「確かに」

「きっと男性を侍らせてお楽しみになるおつもりなんですわ」

「異世界ではそういうものなのでしょうか」「異文化を持ち込まないでほしいわ」「不潔」「不潔ね」「気持ち悪い」


 エマさんも、ハンナさんもダーシーさんもイルゼさんも、誰一人として助けてくれなくて。

 もちろんクラスメイトなんかもっとひどく、中級貴族に命令されてなのか直接的にいじめたり、悪い噂を流しまくったりするようになりました。


「同じ空気を吸っていたくないです」

「王太子殿下に近づこうだなんて理解できないわ」

「どうせ玉の輿狙いだったんでしょう」

「タレンティド公爵令嬢、おいたわしや」「あんなに素晴らしい人を裏切る王太子様も格が知れてるわよねぇ」「しっ、不敬ですよ」


 できることなら今すぐにでも耳を塞いでしまいたい。

 私の心は日に日に追い詰められ、正常さを失っていくのがわかりました。

 ふとした瞬間に自分が自分の首を絞めているのに気づいて、恐ろしくなったこともあります。


 いじめが始まって、一体何日経ったでしょう。

 辛い毎日を数えるのが嫌になっていました。おそらくこの程度のいじめなんて本当に追い詰められている人からすれば生やさし過ぎるくらいなはずなのに、誘拐されて周りに味方がいず弱り切った私の心はそれだけで折れてしまいそうだったのです。


 嫌がらせは悪口だけにとどまらず、実害が及ぶこともしばしば。

 セルロッティさんの取り巻きらしい令嬢たちに物を壊されたり。セルロッティさん自身に噴水に落とされたこともありましたし、もはや不良としか思えないふざけた男子連中に初級魔法で体に何度か傷をつけられました。

 乙女の肌を破くだなんてどうかしています。私の治癒魔法がなければ簡単には治らなかったはずです。


 辛かった。苦しかった。悲しかった。

 どうして私がこんな目に、と同じ問いを繰り返し、何度も死にたくなりました。でも死にたくなる度に家族のことを思い出し、元の世界に帰るんだと、正気を保ち続けていたのです。


 しかしそれにも当然、限界はあります。

 ほんの些細なきっかけで崩壊してしまうくらいの正気だったのですから。


『殺してやる』


 ある日の昼休み、皆よりも一足先に教室に戻ると、机の上にそんな紙切れが置かれていました。

 誰が書いたかはわかりません。この国の言葉だったので、内容を解読するのがやっとでした。


 それは真っ赤な血文字で書かれており、それを見た瞬間全身から力が抜けていきました。


 ――ああ私、とうとう殺されるんですね。


 そういえばこの世界には呪術もあるようですし、私なんてすぐ殺されるでしょう。

 失神してしまわなかったのが不思議なくらいです。口からはあははと情けない笑い声が漏れ、側から見れば明らかに私は狂っているように見えたに違いありません。


 ずり、ずりと。

 まるで腰の抜けた人間のように私は這いつくばって教室を出ていきます。

 とにかく逃げたいその一心で。


「見てくださいませ、『裸の聖女』様の姿。哀れですわね」


 学友らしき女生徒たちと一緒に歩いてきて、こちらを目で示し、嗤うセルロッティさん。

 彼女と同調して口々に悪口を浴びせる取り巻きたち。そして彼女らを見て見ぬふりするその他の人々。


 ――その光景はまるで、悪夢のよう。



 そして背筋に冷たいものが走り。

 私はあまり恐ろしさに震え、思わず絶叫してしまったのでした。

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