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123:不穏な空気

 私を守ってくれると言ってもエムリオ様は男子生徒、そして私は女子生徒。

 寮も、さらには教室だって一緒じゃありません。エムリオ様に医務室に連れて行かれ、そこで彼と別れてから冷静になった私はひどく恐ろしくなってしまいました。


 脅しの内容を話した上、エムリオ様の手を取ってしまった。

 ここまでやらかしていて何の報復も受けないはずがありません。今すぐにでもセルロッティさんの雇った殺し屋がやって来て私を狙う――そんな非現実的な話も、この世界ではあり得るのかも知れないのですから。


 覚悟の上、などと思っていたものの、そんなのは優しさに甘えたかった私の言い訳でしかなくて。

 やはり怖い。今も医務室の扉の外に誰かが立っている気がして、今更のように恐怖が私を襲います。


 ――大丈夫。私は大丈夫。エムリオ様に守られている。第一ここは学園。殺し屋が忍び込めるような場所じゃないはずです。もしそうなら、要人の子息子女が殺し放題になるはずですからね。大丈夫。私はこの学園では死なない。大丈夫大丈夫大丈夫。


 暗示をかけるようにして自分を無理矢理に安心させようとしていた、ちょうどその時のことです。

 医務室の扉が静かにノックされたのは。


「……っ!」


 なんでこんな時に?

 落ち着きかけていた胸はバクバクと音を立て始め、全身が震えます。

 脈絡もなくゾンビ映画のワンシーンが思い浮かびました。狭い部屋の中に隠れて逃れようとする人間。しかし部屋の扉を乱暴にぶち壊し、ゾンビがうじゃうじゃと入って来てしまうのです。


 もちろん現実ではそんなことはありませんでしたが、扉が勝手に開けられてしまいました。


「サオトメ嬢、入るよ」


 私が返事をする間もなく入って来たのは、二人の女子生徒。

 エムリオ様が姿を見せる直前まで一緒に話していた、エマさんとハンナさんです。


 ああ、良かった。

 もしここでセルロッティさんが現れるようなことがあったら、私は心臓麻痺で死んでいたかも知れません。

 そんな内心を隠すようにして、私は「さっきはごめんなさい」と声を絞り出します。「心配したんだよ」、「仕方ないの人なのです」、そう言って肩をすくめながら笑ってくれると思って。

 なのに、


「さっきのは一体どういうこと?」

「なぜ聖女様が、王太子殿下と親しげなのです?」


 返って来たのは問い詰めるような厳しい声だったので、驚いてしまいました。

 でも考えてみたら当然の話です。王子様と知り合いでありながら、それを隠して密通していたのですから。


「……実は私、入学前にもエムリオ様に会ったことがあって。でもエムリオ様ってキラキラ王子様じゃないですか? だから久しぶりに会ってびっくりして思わず逃げ出したんですけど、捕まってここまで連れて来られました。それだけです。それだけなんですよ?」


「ふーん」

「そうなのですか。それなら良いのですけど」


 それ以上何かを訊かれることはなく、次の授業が始まるからと言ってエマさんもハンナさんもすぐに医務室を出て行ってしまい、私は彼女らの背中を見つめることしかできませんでした。


 ――このまま何事もなかったことにしてほしい。

 心からそう願いましたが、そんな都合のいい話があるわけもなかったのです。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 その日から何かが変わってしまいました。

 何でしょう。具体的なことは一つもありません。寮仲間と一緒に寝食を共にし、下等クラスに行って勉強をする。

 ですが私は気づいてしまったのです。誰も私と目を合わせようとしない、合ったとしてもすぐに視線を逸らされることに。


 私のせいだとわかっています。

 それでも不安でたまらなくなりました。


 少しずつ、少しずつ不穏な影が忍び寄って来る。

 そんな気がして仕方ないのです――。

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