120:王立学園での日々
――結局、あの日から私はエムリオ様に会うことはありませんでした。
女子寮の皆さんと過ごし、上級生下等クラスで学び、わからないところがあればイルゼさんあたりに教わる。
そんな風にして毎日を過ごし、王立学園での日々はゆっくり過ぎていきました。
異世界にも四季がきちんとあるのは驚きです。
夏が過ぎるときちんと秋が来て、木々が紅葉し始めました。と言っても元の世界では見かけない木々ばかりではありましたが、薄寒い秋風に舞う落ち葉を見ているとここが異世界だなんて思えません。
そんな秋のある日のこと、私はエマさんとハンナさんの二人と一緒にテラスでのんびりしていました。
「それにしても今日もサオトメ嬢はすごかったよね。魔法はぶっちぎりだもん。あたしも見習いたいよ」
「聖女様の奇跡には驚かされるばかりなのです。やはり女神に愛されしお方は違うのです」
「そんなことないですよ。ちょっとチートではありますけど、まだダメダメなんですから」
今日も魔法授業があり、そこで少し魔法を使ってみせただけで皆がすごいすごいと褒め称えられたのを思い出します。
訓練するうちに使い慣れてきたのか、魔力量の調節をできるようになっただけではなく、使える魔法もどんどんレベルアップしているのです。
これで魔法書という専門書が読めるようになればなお良かったのですが、生憎魔法書は難読過ぎて無理。
文字の勉強はコツコツ進めているものの、魔法書どころか、きちんと本が読めるレベルにも達していません。教科書がギリギリです。
魔法以外の成績がいまいちパッとしないのが私の悩みでした。
「大丈夫大丈夫。サオトメ嬢なら頑張れば主席取れると思うよ」
「それ、エム……別の人にも言われましたけど、私そんなに頭良くないので無理ですって」
「そうかな? まああたし的にはサオトメ嬢と同じ教室でいたいからいいけど」
危ない危ない。うっかりエムリオ様の名前を出すところでした。
エマさんは大して気にしなかったようで胸を撫で下ろしかけた時、ハンナさんの方はめざとく指摘してきました。
「聖女様、この学園で下等クラス生以外のお知り合いがいらっしゃるのですか?」
「あ、えっと。学園に入学する前に会った人のことです。気にしないでください」
嘘は言っていません。エムリオ様と会ったのは王都のはずれですからね。
大急ぎで取り繕った私の答えに、納得のいかない顔をしたハンナさんですが、それ以上問い詰めることなく別の話題を始めました。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「見てください、ポルルク伯爵令嬢のあのドレス。素敵なのです。今度お父様にお手紙を書いて買っていただくことにするのです」
「今の流行りは薄青のドレスらしいね。あたしなんて安物のピンクのドレスだけからなぁ」
「ですがピンクもいいと思うのです。セデルー公爵令嬢のお気に入りの色なのですし」
「でもやっぱりあたしが一番着たいのは赤! タレンティド公爵令嬢とお揃いのがいいな」
「モンデラグ男爵令嬢、それはさすがに高級過ぎますしタレンティド公爵令嬢への不敬だと思うのです」
「そうだよね〜。まああたしはピンクで我慢するしかないか。ねぇサオトメ嬢は何色が好き?」
「私ですか? そうですね、私がもし着るとしたら……」
きっと貴族女性の間では当たり前の日常会話をし、平気な顔でいながら実はそれについていくのに必死な私。
これが王立学園での日常。懐かしい高校生活とはまるで違うけれど、徐々に慣れて来た昼時の時間。
だから私は、油断をしていました。
まさかここへあの人が現れるだなんて思ってもみなかったのですから――。
「やあ、ヒジリ」
ゾワッと。
背筋に冷たいものが走って。
振り返るとそこには、赤毛の青年がいました。
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