12:聖女の力を試してみました
朝食を終えてすぐに私の初仕事が始まりました。
王妃様がドレスで隠していた二の腕の袖をたくし上げると、そこには青白い肌に獣に噛まれたらしき跡がたくさん。そこが黒く腐っていました。
「ど、どうしたんですかこれ……」
「言ったでしょ。母様は魔獣に噛まれたのよ」
思わず息を呑む私に、王女様が吐き捨てるように言いました。そういえば先ほど、王妃様がそんなことをおっしゃっていたような。
この世界にはやはり魔獣とかもいるんですね。噛まれただけでこんなひどい傷になるなんて……背筋がゾクゾクしてしまいます。
私もいずれそんな野蛮な獣たちと戦わされることになるのでしょうか。怖い。帰りたい。
――でも今は、治療に集中です。
私が本当の聖女であれば、この魔物の傷を治せるとのこと。魔物の穢れを取り払うことができるらしいです。
しかしもちろん私は魔法など使ったことがありません。異世界系アニメ等々では、無自覚に魔法をぶっ放したりしますがそんなことができるのでしょうか。
いえ、やるんです。やるしかありません。やれなければ帰れません。帰れなくては死んでしまいます。だから頑張るしかないのです!
王族の皆さんが見守る中、私はそっと王妃様の二の腕に触れました。
「――!?」
何ですかこの体温! 冷たっ!?
まるで氷に触った時のような鋭い冷気を感じ、私は思わず手を離してしまいました。
そしてすぐに、異世界人の体温と地球人のそれが一緒とも限らないということを思い出します。もしかして異世界の人って皆さんこんなに冷たいのですか!?
そう思って国王様の方を見ると、まるで私の心を読んだかのようにこう言われました。
「驚いたろう。王妃の体は魔物に噛まれてからというもの生気を失い、まるで氷のようになってしまっておるのだ」
ということは、肌が冷たいのは異世界人の特徴ではないのですね。ホッとしました。私、人に触れる度にこんな思いをしなければならないのかと想像してヒヤヒヤしましたよ……。
でもつまりそれは、王妃様の体質が異常になっているということですよね。生気を吸い取られたんでしょうか。魔物、恐ろしすぎるんですが。
私は恐る恐るもう一度やり直します。王妃様の肌に触れ……冷たいっ。でもなんとか我慢して手を押さえつけ、必死に「治れ治れ」と頭の中で繰り返し始めました。
魔法を使うなら詠唱した方がいいのでしょうが、生憎私、呪文というものには疎いので知らないのです。もちろんあるRPGの回復呪文なら知っていますがこの世界で通用するとは思えませんし。
王妃様を前にどれくらいの間念じていたでしょうか?
すっかり手が冷え切って、こちらの掌から痛覚が失われ始めました。
傷の状態を見ます。少しでもよくなっていることに期待していたそれは、しかし、黒ずんだままでした。体温も少しも戻っていないのは明らかです。
必死に祈っているのにどうして届かないのでしょう。やはり祈るだけでは回復魔法が発現しないのでしょうか? では一体どうしたら……。
私は焦りながら、胸の中で叫び続けます。
――治れ! 治れ! ヒーリング! 回復! 治癒ぅぅぅっ!
けれど無情にもその心の声は届くことがありません。どんどん私の手が凍っていくばかりで、王妃様には何の反応も見られませんでした。
私は、どうしたらいいのでしょう。私は確かに聖女のはずです。いまいち実感はありませんが昨日そう言われました。第一にそのためにこんな見知らぬ世界まで連れて来られたのですから、聖女であるべきなのです。
なのにこんな傷一つ治せないだなんて情けないにもほどがありました。これがもし二次元ならば神に祈って『奇跡』を起こすところですが、早乙女聖にそのような力はなく、ただただ虚しい静寂が落ちるだけだったのでした。
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