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116:セルロッティさんからの『お話』

「……そこのあなた、今すぐ立ち止まりなさい。アタクシからあなたへ直々に話がありますわ」


 その言葉はあまりにも鋭く、残酷なことに私に逆らう余地など一カケラたりともありません。

 なんと言うのでしょうか。蛇に睨まれた蛙、そんなことわざが脳裏に浮かびました。身長差のある人物から威圧的に見下ろされれば誰でもこうなると思います。特に小心者の私には彼女に抗うことなど到底無理でした。


 具合の悪いことに、セルロッティさんに道が塞がれていて、逃げ帰ることもできなかったのです。


 セルロッティさんに連れて来られた先、そこはテラスでした。

 昼間なら大賑わいなここも、夕刻の今は誰もおらずがらんとしています。適当なテーブルの前に私を座らせると、その向かい側に思わず目を瞠るような美しい所作で腰掛けたセルロッティさんが言いました。


「先ほどは随分とお楽しみでいらっしゃったようですわね、『裸の聖女』様? 神の使いであられるあなたがコソコソと密会などしてはなりませんわ。どなたとお会いしておりましたのかしら」


「別に『お楽しみ』はしていなかったのですが……」


「いいから質問にお答えになってくださいませ」


 燃えるような朱色の瞳が私を射抜き、責め立てます。

 その風貌はまさしく私の知る悪役令嬢そのものでした。高飛車で苛烈、そして無駄にプライドが高いのです。

 一体どうしたものか……と考えながら、私はセルロッティさんに答えました。


「エムリオ様、です」


エムリオ様(・・・・・)ですのね。よくわかりましたわ。――いつあの方と仲良くなりましたのかしら、汚い泥棒猫が」


 その瞬間、セルロッティさんの目つきが少し変わった気がしました。

 危ない――そう思って瞬時に身を外らせたのは正解だったようです。なぜならその直後、私の顔があった位置に扇が突きつけられていたのですから。


「男好きのする体、そして聖魔法が使えるのをいいことにあの方をたぶらかすだなんて。勝手に召喚されたことの意趣返しのつもりで王妃に成り上がろうったってそうはいきませんわ!

 女神様はきっとお間違えになりましたのね。あなたのような裸女のどこに女神様の寵愛を受ける理由がありまして? 皆無。皆無ですわ。

 仮初の聖女の分際であの方と通ずるなど、本来であれば亡き者にして差し上げてもよろしいのですけれど、殺傷沙汰はアタクシ好みませんの。

 今ここで己の罪を省み、二度とあの方をその汚らわしい瞳で見つめないと誓うのであればアタクシはあなたにこれ以上関わることはございません。

 消えなさい、悪女。あなたの出る幕なんてこれっぽっちもありませんのよ」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 十五年生きて来て、悪口を言われたのはもちろんこれが初めてなんかじゃありません。

 小学校の時も中学校の時もイジられたり少しだけなら暴言を吐かれたことだってあります。

 それでも……これだけの激しい怒りを叩きつけられたのは初めてで、心の奥底から恐怖が湧き上がって来ました。


 ――逆らったらどうなるかわからない。


 足がガクガクと震えるのがわかりました。全身から血の気が引いて、きっと私は青ざめているでしょう。

 それほどまでに恐ろしいと思ってしまったのです。


「わかり、ました」


 エムリオ様とはそんな関係ではないとか、別にこちら側に悪気はないことだとか。

 色々言いたいことがあったはずなのに、口から漏れたのはたった一言だけでした。


 セルロッティさんは何も言わず、私の方へ向けていた扇を引っ込めると席を立ちます。

 『お話』は終わったということでしょう。立ち去る彼女の後ろ姿は優雅で、エマさんが見惚れたと言っていたのも納得できるかも知れない、などとぼんやり考える私は、きっと正常さを失っていたに違いありません。

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