115:泥棒猫、許すまじですわ ――セルロッティ視点――
――エムリオがおかしい。
「エムリオ、お久しぶりですわね。お元気でいらっしゃいましたか?」
「ああロッティ。久しぶり。ボクの方は大丈夫だよ。実は途中で聖女に会ってね……」
夏季休暇明け、秋季の授業が始まった初日、王立学園に到着したアタクシがまず真っ先に会いに行ったのはエムリオでしたわ。
数週間ぶりに彼との再会に胸が高鳴ります。しかしアタクシはそれと同時に、確かな違和感を感じていましたの。
――何か、何かが違いますわ。
聖女を語らう時のエムリオの顔は、どこか熱っぽいもので。
アタクシに視線を向けられているのにアタクシを見てくださっていない。そんな気がいたしましたの。
でもこれはきっと何かのせいだと思いたかった。ですからアタクシは、それを確かめるために聖女の元へ足を運んだのですわ。
「ごきげんよう。あなたが入学してきた聖女ですわね。……ふしだらな身なりですこと」
豊満な胸を半ば曝け出すようにして廊下を歩いていた女。
明らかに媚を売るような体つきをしたこの小女が、女神様がお選びになった聖女だなんて到底信じ難いことですわ。
しかもアタクシの許可なく話し出すなんて不敬にもほどがありますわよ。なのでそれを教えて差し上げると共に、万が一男をたぶらかすようなことがあったら容赦はしないと警告しておきましたの。
それが昨日のこと。
なのに。
アタクシ、聞いてしまったんですの。
立ち聞きなんて失礼な行為をしたことには反省しておりますわ。ですが、偶然前を通りかかった空き教室の中から聞こえて来た声に耳を離せなくなってしまったのですわ。
それは、エムリオと聖女が親しげに話す声でした。
信じられませんわ。そう思うと同時に、しかしアタクシは妙に納得しましたの。
エムリオはあの巨乳女に誘惑されてしまったのだ、と。
レーナ殿下のおっしゃっていた懸念とやらが見事に的中し、聖魔法の効能のおかげで聖女側から擦り寄られればどうしても断れなかったのでしょう。
そしてそのままエムリオはあの女に貢がされ、心を奪われていっているに違いありませんわ。誰もいない空き教室で二人でやることといえば――想像しただけで目眩がし、アタクシは思わず逃げ出してしまいました。
エムリオがそんなことするはずがない。エムリオが、アタクシのエムリオが!
冷静になろうとして何度心の中で叫んでも無意味でしたわ。
だって現に二人でお楽しみではありませんの。そして頬を高揚させた裸女が教室から現れた時、それは決定的となったのです。
――プツン。
アタクシの中で何かが切れる音がして。
気づけば、裸女を呼び止めていましたの。
「そこのあなた、今すぐ立ち止まりなさい。アタクシからあなたへ直々に話がありますわ」
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